キョン「ここはどこだ…?つーか俺は誰だ?何も思い出せない…」


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22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/10(木) 04:45:50.25 ID:XxwQ4sqPO

続くかぎり保守だ


ゆっくりと意識が覚醒していくのが分かる。遠く、いや近くか?とにかく何やら声が聞こえる。
やたらと叫んでいるようだが、その相手はもしや俺か?
今やそのくらい近くから聞こえる声に顔をしかめながらうっすらと目を開ける。
「キョン!!」
俺を覗き込んでいるのは同い年くらいの女子だった。肩で切ったボブと黄色いカチューシャのリボンが目の前で揺れる。ちょ、誰だかしらんが顔が近くないか?そうそう思う俺をよそに、相手はこっちを心底心配そうに見てくる。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/10(木) 04:59:42.97 ID:XxwQ4sqPO

「ちょっと返事しなさいよ!キョン、あんた大丈夫なの!?」
見知らぬ女子からほぼ馬乗りで、しかも至近距離で叫ばれる俺の身にもなってくれ。
「だ、大丈夫だ」
答えなければ離さないといった様子で叫ぶ相手に、俺はひとまずそう返事をした。実際のところ体のあちこちがやけに痛むし、とりわけ頭がズキズキと痛むのだが、そう言えない気迫が目の前の相手にはあった。
「よかった……!」
それまで危機迫る表情だった相手はそう言って相好を崩した。花が綻ぶようなその笑顔に俺は思わず目を見張る。
「あ、……っもう、心配させないでよ!ほら、立ちなさいよ。足は?痛くない?」
相手は恥ずかしそうに顔を反らすと、そう悪態をつくように言って先に立ち上がった。
「ああ……大丈夫だ。心配かけてすまん。……で、だな……」
俺は辺りを見回した。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/10(木) 05:13:59.45 ID:XxwQ4sqPO

どうやら階段の踊り場らしい。相手と自分の恰好からして学校であることは間違いないな。ただ残念なことに、それがどこなのかが分からない。見覚えのない学校の階段、その踊り場に、俺は見知らぬ女子生徒と立っていた。
「ここはどこだ?いや、学校ってのは分かるんだがな、どうも見覚えがないんだ」
目の前の女子生徒はあからさまに「はあ?あんた何言ってんのよ」という顔をした。まったくもって不思議なことだが、なぜか相手の言いそうな台詞まできちんと浮かんで来た。自分でも何を言ってるんだと思うだけに、我がことながら相手には同情を禁じえないが、事実は事実だ。
「ついでに言うと、あんた誰だ?」
目の前の女子生徒は、いよいよもって信じられないこの世ならざるものを見るような目で俺を見て来た。何だ何だ。俺は幽霊か。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/10(木) 05:23:10.77 ID:XxwQ4sqPO

これ読んでる人いる?


「キョン……、ちょっと、冗談はやめなさいよ。つまんないわよ」
相手は一気に凍り付いた表情で、それでも何とか俺を笑い飛ばそうと顔を引き攣らせた。俺も冗談ならよかったんだがな。
「……ウソ、でしょ?」
相手の声が細かく震えたのが分かった。大きな瞳を見開いてこっちをじぃっと見つめてくる。
「あんた、あたしのこと忘れちゃったの?……SOS団のことも?みくるちゃんや、有希や、古泉くんのことも!?」
悲壮感の漂う声で言い募られる。その人名のどれにも心当たりはないな。そう言うと同時に、目の前の女子生徒に驚愕と失意の表情が浮かぶのが分かった。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/10(木) 05:36:07.83 ID:XxwQ4sqPO

「記憶喪失……?ウソでしょそんな……そんな訳」
うろたえたように相手は呟き、俯いたかと思うと今度はいきなり顔を上げた。
「いけないわ、いますぐ病院に行くわよ!キョンは頭を打ったの。階段から落ちて……ドジなんだから」
言うや否や俺の手を取って駆け出そうとする相手を俺は慌てて制した。
「待て!ちょっと待て。まずその前に、……あれだ。確認させてくれ」
「……何よ」
「まず名前を教えてくれ」
「あんたはキョンよ。あたしは涼宮ハルヒ。あんたとあたしは同じクラスで……で、あんたはあたしが結成したSOS団の団員」
……何やら妙なことになっているようだぞ。何だ、SOS団って。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/10(木) 05:48:09.93 ID:XxwQ4sqPO

いないかー(´・ω・`)


「世界をおもしろくするための涼宮ハルヒの団よ!いいでしょ。当然あたしが団長なの」
スケールが大きすぎてどこからつっこんでいいものやら分からんようなことを、さも当然のように涼宮ハルヒは言い切った。
「団員はあんたを始め、5人よ!ああそうだわ。皆にも話さなくちゃいけないわね」
皆って誰だよ。
「キョン、あんたほんとに大丈夫?大丈夫なら今から皆のとこに連れてくけど」
大丈夫だ。とりあえず説明を先にしてくれ。
「……そうね。自分のことが分かんないって不便だし、不安よね。分かったわ、ついてきて」
涼宮ハルヒはそう言うと軽やかな足取りで階段を昇り、困惑しきりの俺を先導し始めたのだった。

229 名前:三番手[] 投稿日:2008/04/10(木) 20:35:21.58 ID:XxwQ4sqPO

>>27

さて。そうこうして俺は階段を昇り、やや古めかしいとも言えるドアの前へと連れていかれた。
「いきなりじゃみんな驚くわ。あんたはここにいなさい。呼んだら来るのよ、いいわね!」
どうでもいいが何でこうも高圧的な物言いなんだ。
呼んだら来いって、俺は犬か何かか。
俺の答えなんぞは待ってられないとばかりにドアの向こうへと消えた涼宮ハルヒに、俺は溜息をつくことしかできなかった。
まったく、どうしたもんかね。
そもそも記憶をなくす前の俺はどんな人間だったんだ。
あの高圧的な物言いに何も思っちゃいなかったんだろうか?
そもそも何で得体の知れないSOS団なんかに入っているんだ。
俺はそれに納得していたんだろうか。
考えれば疑問は尽きない。
ともあれ平穏な学生生活は送っちゃいなかったんだろうな。
記憶喪失なんて、まるで漫画か小説の世界の現象に見舞われる時点で想像もたやすい。
己の置かれた現状に俺は二度目の溜息をついた。

230 名前:三番手[] 投稿日:2008/04/10(木) 20:36:44.78 ID:XxwQ4sqPO

>>229

「キョン!来なさい!」
壁にもたれて窓の外を眺めながらそんなことを考えているうち、部屋の中からお呼びがかかった。
ドアのノブを握る。
不思議なことに手に馴染んだそれを開くと、こちらを見遣る4対の目と目があった。
男一人を除くとみんな女子だ。
記憶をなくす前の俺は本当に何をしていたんだ?
しかも恐ろしくレベルが高い。
まさにハーレムかくやといった様相に、俺は思わず言葉を失った。
「キョン、紹介するわ。みくるちゃんよ。えーっとあんたは朝比奈さんって呼んでたわね」
「朝比奈みくるです。えっと、えっと……大丈夫……ですか?」
何とも愛らしい声でそう言ったのは朝比奈みくるさんというらしかった。
気遣うような瞳で俺を見てくるのが少し気恥ずかしい。
「大丈夫です。朝比奈さん」
とにかく安心してもらいたくて頷くと、朝比奈さんはほっとしたように表情を和らげた。

231 名前:三番手[] 投稿日:2008/04/10(木) 20:37:40.61 ID:XxwQ4sqPO

>>230

「次!有希!あんたは長門って呼んでたわ」
「長門有希」
これは……、何と言うべきかな。
涼宮ハルヒとも朝比奈さんとも違うタイプなのには間違いない。
無表情にも見えるガラスのような双眸が俺を見上げてくるのだが、……おかしなことにその一見無感動そうな瞳には確かに不安げな色が見えた。
心配、されているんだろうか。
「長門……さん、も。心配かけたみたいだな。すまん」
「呼び捨てで構わない」
「ああ……」
頷く。
独特のテンポに少し戸惑うな。
……それにしても朝比奈さんや長門、この二人もあの例の「世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団」とやらに納得して入団しているんだろうか?
非常に不可解だ。

233 名前:三番手[] 投稿日:2008/04/10(木) 20:38:47.37 ID:XxwQ4sqPO

>>231

「最後!古泉くんよ。この団の名誉ある副団長でもあるわ!あんたは古泉って呼んでたわね」
「古泉一樹です。いやぁ、不思議なものですね。見た目も言動も、まったく以前のあなたのままですよ」
そう言って微笑むハンサムマンはやけに慇懃な口調でそう言った。
記憶を失った俺に対してというよりは、ただの性分なのだと思うようにすべらかな口調だ。
「そうなのか?」
「ええ、そうして答える様もまったく以前のままです。涼宮さんが戸惑われたのも納得ですね」
頷きながら古泉とやらはちらりと涼宮ハルヒの方を見た。
その視線を受けて涼宮ハルヒが口を開く。
「キョン。さっきも言った通りあんたは階段から落ちたのよ。足を踏み外して。とりあえず大丈夫そうだけど、病院に行った方がいいと思うわ。頭ってのは見てみないと分かんないものよ」
だから今日は解散!と涼宮ハルヒは話を締め括った。
「ちょっと待て、悪いが俺は病院の場所も自宅の場所もわからんのだが」
「あ……と、そうね。分かったわ。じゃあみんなで行きましょう。いいわね?」
涼宮ハルヒはそう言って団員の顔を見回した。
面々は皆一様に頷いている。
異論はないようだ。
「じゃ、行くわよ!キョン!」
そう言って、涼宮ハルヒは我先にと荷物を担ぐと部屋を飛び出したのだった。

269 名前:[] 投稿日:2008/04/10(木) 23:37:53.82 ID:XxwQ4sqPO

とりあえず投下する
もとより保守代わりだ


>>233

その日の夜になった。
つつがなく検査を終え無事帰宅の許可が出た俺は、見慣れない自室というものを満喫していた。
いや、つつがなくというのは違うのかも知れないな。
俺はベッドに寝転がったまま、制服の内ポケットに入っていた紙切れを眺めた。
「放課後中庭の木の下にて待つ」
そう書かれた紙は、自分の名前が署名されている。
反対に、この手紙とも言えない紙切れを出されるはずだった相手の名前はどこにも書かれていなかった。
この紙切れを、俺は誰に出すつもりだったんだろう。
紙面に並ぶ文字を見つめると、なぜか心の底がざわざわするような居心地の悪さが襲った。
本日何度目になるかも分からない溜息をつく。
そのときだった。

270 名前:[] 投稿日:2008/04/10(木) 23:40:07.32 ID:XxwQ4sqPO

>>269


枕元に置いていた携帯電話が突如として鳴り出した。
驚いて体を起こし携帯を開く。
朝比奈さんからだ。
「はい」
「あっ、キョンくんですか?」
それ以外だったらどうするつもりなんだろうと思いながら、はいと返事をする。
「えっと、今から外に出れますか?……その、お話したいことがあるんです」
耳元のくすぐったい声に、いきなり心拍数が上がるのが分かる。
何とか平静を保ちながら、大丈夫ですよと答えると、朝比奈さんはほっとしたように声を上げた。
「よかったぁ……じゃあ、外で待ってますね」
「え?」
そう言いながら窓に近寄り、かかっていたカーテンを開く。
すると何と言うことだろう。
携帯を片耳に当てている朝比奈さんが部屋の真下に面した通りにひっそりと立っていた。
こちらに気付いたらしく、俺の方に小さく手を振っている。
「すぐ行きます!」
そう言って携帯を切ると、部屋を飛び出し階段を駆け降りた。

271 名前:[] 投稿日:2008/04/10(木) 23:41:51.41 ID:XxwQ4sqPO

>>270


「やあ、お疲れ様です」
玄関を開けたところにいたのは、にこやかに笑みを浮かべる古泉一樹だった。
「こ、古泉……」
いたのか、という言葉を飲み込んで一歩後ずさる。
「長門さんもいますよ」
古泉の後ろから顔を覗かせ小さく、本当にほんの僅か頭を前に傾けて長門が挨拶をした。
「朝比奈さんから聞かれたと思いますが、お話したいことがあります」
「……そうか」
そう言うしかないだろう。
俺は何か一種異様な空気を感じながらも頷いた。
上がるか?と言うと古泉は頭を左右に振って外を示し踵を返す。
無言のままその後をついていく長門を目で追ったあと、俺もまたその後に続いた。
「キョンくん!」
門扉を開けるとちょうど俺の部屋が見える位置で朝比奈さんが立っているのが見える。
「揃ってどうしたんだ?まさか今からSOS団とやらの会合か?」
そう古泉に質問を投げると、古泉は肩をすくめて俺を見た。
「あるいはイエスと言えるでしょう」
どういう意味だ。
「とりあえず、場所を移しましょう」
そう言って古泉が向かったのは近くの公園だった。

275 名前:[] 投稿日:2008/04/11(金) 00:09:34.29 ID:aHQC7JUzO

>>271


「単刀直入に言いますよ。僕は超能力者です。制限つきのものですが」
「えっと……信じてもらえないかもしれないけど、あたしは未来から来ました」
「情報統合思念体によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェース」
…………。
「もう一回分かりやすく言ってもらってもいいか」
そう言うと古泉は慇懃に頷いた。
「超能力者です」
「みっ、未来人です」
「情報統合思念体によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェース」
………………。
ふざけてるのか、と聞くと皆一様に頭を横に振った。
何かの演劇の練習か、と言うとこれまた頭を横に振られた。
「我々は涼宮さんを中核とした異能力者です。皆それぞれにそれぞれの思惑を持ってここにいるんですよ」
「涼宮の……?」
「はい。彼女は通常ではありえない能力を無自覚に有している……それがどのくらいの規模かというと、この世界そのものを左右するに足るといいましょうか。そのくらいの情報を、彼女は発信しています」
俺は微笑んだまま言う古泉の顔をまじまじと見ることしかできなかった。
「記憶を失う前のあなたも、そんな表情をしました。同時に信じられないとも言いましたね」
当たり前だ。
こんなのを即座にほいほい信じるようなやついるのか。
「実に共感出来る見解ではありますが、残念ながら事実です」
古泉は肩を竦めた。

278 名前:[] 投稿日:2008/04/11(金) 00:21:51.61 ID:aHQC7JUzO

>>275


「それで」
俺は溜息をついた。
それで、と言ったもののうまく言葉が繋がらない。
そもそも何だ?
超能力者に未来人、宇宙人に世界を揺るがすような存在ときて、あげくに記憶喪失者ってどういった集団なんだよ。
そうでなくても奇妙奇天烈な集団なのにも関わらず、これじゃあどうしようもないじゃないか。
「何が目的だ。いや、待て、世界がどうとかいうそっちの目的はいい。今それを何で俺に話した?」
そう言うと、今度は古泉の代わりに長門が口を開いた。
「記憶を失う前のあなたは、ひどく不安定な状態にいた。それが今のあなたの記憶の混濁に強い影響を与えている」
「何かに悩んでいたということか」
「そう」
長門が小さく顎を引いて頷く。
「発生した問題の根源を解決することで混濁は解消する」
公園の白熱灯の光を受けて、俺を見つめる長門の瞳がきらりと輝いた。

282 名前:[] 投稿日:2008/04/11(金) 00:34:23.02 ID:aHQC7JUzO

>>278


「長門さんの言うことを鑑みますに、状況を正しくする意味でもあなたに告白をした方がいいと考えまして」
その告白のおかげで余計記憶が混濁しそうだよ。
俺は長門から目を反らし、公園の植え込みを見た。
「悩みって言ったってな……」
記憶もない俺にそんなことが分かるか?
そう思ったとき、ふと脳裏をかすめたのはあの一枚の紙切れだった。
中庭に来いとだけ指示されたあの紙片。
今の手掛かりはそれだけと言ってもいい。
俺はそのことを三人に話した。

「手紙の内容に心当たりはあるか?」
そう聞くと三人の反応は三種三様だった。
古泉は訝るように眉を寄せ、朝比奈さんは愛らしく首を傾げて見せた。
長門はゆっくりと瞬くだけだ。
俺は三人を順に見ると、頭に手をやった。
お手上げだ。

292 名前:[] 投稿日:2008/04/11(金) 00:58:29.09 ID:aHQC7JUzO

>>282


いや、待て。
あとひとり、俺が呼び出しそうな相手がいるじゃないか。
俺は頭に浮かんだ相手の名前を呟いた。
「涼宮……なのか?」
呟きを拾ったのは長門だった。
「その可能性は非常に高い」
何でだ?
「中庭という場所が鍵」
どういう意味だ。
「それは答えることが出来ない。禁則事項」
禁則事項……ねぇ。
長門の言葉を聞いて、古泉は小さく笑った。
「何にせよその手紙が涼宮さん宛なのでしたら、僕たちもいよいよ安泰のようです」
これまた意味の分からないことを言って、僥倖とばかりに微笑んでいる。
「キョンくん、頑張ってください」
朝比奈さんまでもがきらきらと輝いた瞳で俺を激励してきた。
何だ何だ、事態がまったくさっぱり読めんのだが、いったいこれはどうなってるんだ?

296 名前:[] 投稿日:2008/04/11(金) 01:20:51.61 ID:aHQC7JUzO

>>292


俺だけが恐ろしく読めない状況のまま、なぜか納得した顔の三人は互いに頷きあい、それを合図に突発的なこの会合は散会となった。
家までの帰路を辿りながら俺は夜空を見上げてみる。
超能力者や未来人、宇宙人なんてものは置いておいて、とにかくあの手紙の受取人は誰なのか、それだけを考えた。
さっきは三人に心当たりがなさそうだったから涼宮の名前を出したが……、本当に俺は涼宮を呼び出すつもりだったんだろうか?
ふと、夕方の出来事が蘇る。
階段から足を踏み外した俺のことを必死に呼び続けた涼宮の悲痛そうな表情と声が胸に還った。
そして俺が無事を告げたあとの、あの花が綻ぶような安堵の微笑みも。
みんな確かに俺のことを心配してくれた。だが、誰より心配してくれたのは涼宮なのかもしれない。
門扉の前で足を止め、俺はそんなことを考えていた。

302 名前:[] 投稿日:2008/04/11(金) 01:42:59.82 ID:aHQC7JUzO

>>296

翌日の朝がきた。
学校に行くか病院へ行くか問われて、俺は迷わず学校を選んだ。
昨日病院では「脳に異常はない」という診断を受けている。
記憶障害については一時的なものだろうと言われていた。
そのうえで病院に行く必要はもうないだろう。
おざなりにネクタイを締めたあとに玄関で靴を履き、ドアを開ける。
と、そこには
「……涼宮?」
門扉に寄り掛かるようにして、こっちに背中を向けた涼宮ハルヒが立っていた。

「っ、キョン!迎えに来てあげたわよ。感謝しなさい」
ぱっとこっちを向いた涼宮は開口一番そんなことを言った。
まったくお前ってやつは朝っぱらからだって高圧的なんだな。
だがそこまでの不快感はない。
「いつから待ってたんだよ」
「えっ?そ、そんなには待ってないわよ。いつもあんたが学校に来る時間なんて分かってるから、それを逆算してきたし……」
涼宮はぶっきらぼうにそう言うと口を尖らせた。

306 名前:[] 投稿日:2008/04/11(金) 01:59:17.08 ID:aHQC7JUzO

>>302

「あんたねぇ、ネクタイくらいちゃんと締めなさいよ!ほら、あたしがやったげるから」
「ちょ、涼宮!?」
言うや否や、涼宮は俺のネクタイを解いた。
細っこい指がちょこまかと動いてネクタイを綺麗に締め上げる。
「ほら。首、ンってして」
首を上げながら、俺は今更ながら周りの目というものを気にし始めた。
正直今のこの状況は、いまどき新婚夫婦でもやらんのではなかろうか。
横目で周囲に気を配ろうとするが、首を捻りすぎたらしい。
涼宮から「じっとしなさいよ。結びにくい」と怒りの声が飛んだ。
「よしっ、出来たわよ!じゃっ行きましょ」
満足げに笑んだ涼宮は、そんな風に言って頷くと鞄を再び手に持って歩き出した。

310 名前:[sage] 投稿日:2008/04/11(金) 02:23:34.46 ID:aHQC7JUzO

>>306


燦々と降り注ぐ朝の爽やかな日光を浴びながら、俺と涼宮は北高の坂を登っていた。
それにしても長ったらしい上にどこまでも続く坂だ。
こんな坂を毎日登り降りせにゃならんことを考えると、まったく出てくるのは溜息だけだな。
「キョン、あんた大丈夫?医者には急な運動は避けろって言われてんでしょ?無理はしちゃだめよ、あんた運ぶのあたしなんだから」
涼宮はさっきからこの調子だ。
心配しているのか命令しているのか分からない口調で俺にそう言ってくる。
ただ、その少し怒ったような表情を見ていると、真剣に俺を心配しているのかもしれないと思えた。
今も内ポケットに入れてあるあの紙切れ。
受け取る相手は、このだいぶ高圧的で心配性な、涼宮ハルヒなのだろうか。
俺は涼宮を見ながら、そうならいいとなんとなく思った。

315 名前:[] 投稿日:2008/04/11(金) 03:12:26.84 ID:aHQC7JUzO

>>310

昼休みになった。
とりあえず記憶喪失であるということはごく身近な友人にだけ伝えておくことにした。
それでも学校生活は問題なく進むだろうという涼宮の案だ。
不思議なもので学校で勉強したことなんかはちゃんと覚えている。
誰に教わったとかは忘れていても、教わった内容は覚えているから授業にも困らなかった。

谷口と国木田というクラスメイトと昼食を摂り、何とは無しに校舎内を歩くうち、どうやら中庭に出たらしかった。
一本のそこそこ大きな木が生えている。
その根元に、涼宮ハルヒが寝転んでいた。

317 名前:[] 投稿日:2008/04/11(金) 03:42:10.81 ID:aHQC7JUzO

>>315


「涼宮」
「……キョン」
涼宮は目を閉じていた。
さわさわと揺れる木陰の下でどうやら昼寝と洒落込んでいたらしい。
邪魔したか?と尋ねると、静かな声で「ううん」と返された。
隣に腰を降ろす。
「ねえ」
ざあ、と風が吹いて葉が音を立てる中、涼宮はまっすぐに空を見ながらそう言った。
「ハルヒって呼びなさいよ」
ぽつりと呟いた言葉は、いやに俺の胸を刺した。
何でだろうな?
こいつの寂しさみたいなものが急に伝わって来たのかもしれない。
ああ、こいつはずっと、寂しかったんじゃないだろうか。
そう思うのは思い上がりだろうか。

「……ハルヒ」
名前を呼んだ。
初めて、ハルヒがこっちを見る。
「キョン。あんた何で忘れちゃったのよ。何で……忘れちゃえるのよ。一生かかったって忘れられない楽しいこと、たくさんやってきたのに」
ハルヒの瞳が惑うように揺れた。
「……今更涼宮なんて他人行儀に呼ぶなんて、……あたし、許さないわよ」
きっと俺を睨み上げる、その瞳から涙が一筋零れ落ちるのを、俺は見てしまった。
「ハルヒ」
もう一度、そう名前を呼ぶ。

321 名前:[] 投稿日:2008/04/11(金) 04:18:44.37 ID:aHQC7JUzO

>>317

そのときちょうど予鈴が鳴った。
ゆっくりとしたチャイムが鳴り終わっても、俺もハルヒもその場を離れようとはしなかった。
「……悪い」
「謝んないでよ。そんなんじゃないわ」
そんなんじゃないのよ、とハルヒが繰り返すのを聞きながら、俺はどうしたものかと考える。
俺の気持ちはもうハルヒへと向いていた。
この状況に抗うような理由はどこにもない。
「……ハルヒ」
何よ。
そう不機嫌そうに言うハルヒが、実は照れているというのは微かに赤く染まった頬を見れば何となく分かった。
きっと俺だって同じだな。
今から言おうとしている言葉を考えれば、いても立ってもいられないような気持ちになる。
ごまかしも何もかんも一切なしだ。
俺は制服の内ポケットに手をやり、そこにしまってあった紙切れを取り出した。

325 名前:[] 投稿日:2008/04/11(金) 04:46:06.30 ID:aHQC7JUzO

>>321


「やるよ」
<俺>からの気持ちだ。
そう言うと、ハルヒは怪訝そうな顔をした。
「何よ放課後って。今言いなさいよ」
むくりとハルヒが起き上がる。
「今言ったっていいんだがな。悪いがちょっと待ってくれ」
「…………何だか分からないけどまあいいわ。放課後、ここでいいのね?」
「ああ」
頷いて見せると、ハルヒは怪訝そうな顔のまま紙をすかしてもう一度眺めた。
それからその紙をポケットへとしまい込むと、何かを振り切るように猛然と立ち上がる。
「さっ、戻るわよ!キョン!」
「ああ。……そうだな、ハルヒ」
そう言うと、ハルヒは華やかな笑顔を俺に向けて浮かべて見せた。
100ワットの笑顔。
そんな言葉が、どうしようもない懐かしさと共に頭をよぎる。
この笑顔を、俺は知っている。
そしてその笑顔を、俺はきっと好きだったんだと思う。
前を駆けていくハルヒを見ながら、俺はそんなことを考えていた。

329 名前:[] 投稿日:2008/04/11(金) 05:44:42.51 ID:aHQC7JUzO

>>325


放課後。
「あたしちょっと部室に顔出してくる」
こっちを見ようとしないハルヒがそう言うのに頷いて、俺は中庭に降りた。
さて。どう言ったもんかね。
木の根元に座り込み、それからごろりと横になった。
目を閉じると気の早い吹奏楽部のパート練習の音が聞こえ始める。
それを聞きながら、俺は当然と言えば当然だがハルヒのことを考えていた。
それからあの紙切れのことも。

長門は「中庭にて待つ」という言葉に意味があると言った。
それが本当ならきっと、記憶を失う前の俺もハルヒを好きだったんだろう。
思い悩んでいたというのは告白についてで、手紙を書きはしたものの渡すタイミングを見出だせずにいたんじゃないかと思う。

331 名前:[] 投稿日:2008/04/11(金) 06:15:16.47 ID:aHQC7JUzO

>>329


「待たせたわね」
ふ、と影が濃くなるのが分かった。
ハルヒだ。
俺は目を開けて体を起こす。
反対にハルヒは俺の隣に腰を降ろした。
「じゃ、話を聞こうじゃない。午後の授業分あたしを待たせたんだし、とびっきりの話じゃないと承知しないんだから」
「とびっきりかどうかは分からんが、とりあえず大事な話だな」
「ふーん……。で、何よ」
ハルヒがこっちを見るのが分かった。
黄色いリボンが風に揺れる。
ハルヒの存在を感じながら、俺は覚悟を決めた。
ええいままよ、あとは野となれ山となれだ。
「好きだ」
そう言ってハルヒを見つめる。
ハルヒの方はというと、意味が通じているのかいないのかきょとんとした表情で俺を見つめ返していた。
それから訝るようにその瞳をすがめて見せる。
「…………誰が、誰をよ」
「俺がお前をだ」
「だめよ、ちゃんと言いなさい」
「ハルヒ、お前が好きだ」
そう言葉にするのと同時、ハルヒの瞳から涙が零れた。

334 名前:[] 投稿日:2008/04/11(金) 06:46:46.94 ID:aHQC7JUzO

>>331


「やだ、違う。何で……涙なんか」
ハルヒが慌てたようにしてその涙を拭う。
「ばか。ばか。……何でこんな状況のときにそんなこと言うのよ。……ばか」
拭っても拭ってもあとから零れる涙に戸惑うように、ハルヒは両手を使ってその涙拭いながら、それでも強がるようにそう言った。
「……俺じゃだめか」
記憶のない俺に言われてもどうしようもないことなのかもしれない。
ハルヒを覗き込むと、いやいやとするように緩く頭を左右に振られた。
「ばかね。……嫌なわけ、ないじゃない。記憶があろうがなかろうが、……キョンは、キョンよ。そんなの、あたし、とっくに知ってるんだから……ッ」
込み上げる鳴咽で途切れ途切れになりながらも、ハルヒは俺にそう言った。
そっと髪に触れて頭を撫でる。
涙を拭う手を止めたハルヒが、驚いたような表情で俺を見た。

339 名前:[] 投稿日:2008/04/11(金) 07:08:18.44 ID:aHQC7JUzO

>>334


ハルヒの頬に掛かる髪をそっと撫でてその耳にかける。
「……キョン」
小さなハルヒの声が、何かを促すように、あるいは何かを警告するように、俺の名前を呼んだ。
「すき。あたしもずっとすきだったの。……キョンのこと、ずっと」
また一つ、ハルヒの瞳から涙が落ちる。
それが頬を伝うのを見るより先に、俺はハルヒのその唇にキスをした。

340 名前:[] 投稿日:2008/04/11(金) 07:14:34.34 ID:aHQC7JUzO

>>339


ここからはその後日談になる。
結果として俺は以前の記憶を取り戻すことが出来た。
何ともお粗末な話だが、ハルヒとキスをした瞬間、例の閉鎖空間でのハルヒとの顛末を思い出し、それを引き金にするようにしてすべての記憶が蘇ったのだ。
長門的に言うなら、問題が解決したことにより俺の記憶の混濁も解消されたというわけだろう。
事実俺はハルヒとの関係や、それに付随するであろう諸問題について悩んでいたし、どうしようもない状態にあった。
そんなときに階段から転げ落ちたせいで、直面したくない問題から逃げていたらしい。
終わりよければすべてよしですよ、なんて古泉のやつは言っていたが、まあ俺もそれには概ね同意だったりする。


そういった風に、今回の記憶喪失の一件は落着を見た。
涼宮ハルヒは、今日も元気に俺の隣で笑っている。

341 名前:[] 投稿日:2008/04/11(金) 07:18:23.87 ID:aHQC7JUzO

終わり!
長いことスレ使ってすまんかった!

530 名前:[] 投稿日:2008/04/12(土) 00:05:57.44 ID:HSVI2d2uO

というわけでまた保守な投下をさせてほしい
速度は昨日並と見ててくれ


「三」 古泉友情ルート
>>282


とりあえず手紙の受取人が何らかの鍵となるだろうことは間違いないという結論を見て、その突発的な会合は散会となった。

帰る道すがら、俺は今日のことを振り返ってみる。
不思議と記憶がなくなったことに対しての恐怖というものはなかった。
これは俺の実感でしかないが、怖さも何もないのは恐怖を感じるほどの情報を持っていないからこそだろう。
恐らく俺よりもその周囲の方が不安に思っているだろうし、心配してくれているのだと思う。
涼宮、朝比奈さん、長門、そして古泉。
みんなの顔が次々と浮かぶ。
記憶喪失の鍵となる手紙の受取人は、この中にいるんだろうか。
気がつけば俺は門扉の前に立ち止まってそんなことを悶々と考えていた。

531 名前:[] 投稿日:2008/04/12(土) 00:09:36.80 ID:HSVI2d2uO

>>530


翌日の朝がきた。
学校に行くか病院へ行くか問われて、俺は迷わず学校を選んだ。
昨日病院では「脳に異常はない」という診断を受けている。
記憶障害については一時的なものだろうと言われていた。
そのうえで病院に行く必要は、もうないだろう。
おざなりにネクタイを締めたあとに玄関で靴を履き、ドアを開ける。
学校への道筋は、昨日病院から帰る道すがら涼宮がしつこいくらいに道筋を繰り返していたからな。大丈夫だろう。
鳥の鳴き声を聞きながら道筋を辿るうち、長い坂道が見えて来た。
ここを登れば北高だ。
これは涼宮に感謝しなくちゃいかんな。
そう思って、俺は長い坂を見上げた。

記憶喪失二日目。
一日が始まろうとしている。

532 名前:[] 投稿日:2008/04/12(土) 00:11:36.31 ID:HSVI2d2uO

>>531


昼休みになった。
とりあえず記憶喪失であるということはごく身近な友人にだけ伝えておくことにした。
それでも学校生活は問題なく進むだろうという涼宮の案だ。
不思議なもので学校で勉強したことなんかはちゃんと覚えている。
誰に教わったとかは忘れていても、教わった内容は覚えているから授業にも困らなかった。

谷口と国木田というクラスメイトと昼食を摂り終えた俺は、ぶらぶらと校舎内をさまようことにした。

あてもなく歩いていくうち、自然と足は昨日俺が足を滑らせたという旧校舎の階段に来ていた。
「……古泉」
そこに立っていたのは古泉だった。
昼休みの部室棟は静かなもので、ただうららかに鳥の鳴き声が聞こえている。
「あなたでしたか。どうしました?めずらしいですね」
俺の存在に気付いたらしい古泉は、そんなことを言いながらその顔にいつも通りの微笑みを浮かべた。
……いつも通りというのは妙かもしれないな。
何せ俺には昨日からの記憶しかないのだ。
「散歩だよ。腹ごなしのな」
そう言うと、古泉はその微笑みを笑みに変えて頷いた。

533 名前:[] 投稿日:2008/04/12(土) 00:13:53.80 ID:HSVI2d2uO

>>532


「なるほど。そうでしたか」
お前は何でここにいる?
「僕の方も……そうですね。散歩です」
そうか。
「ええ。実は昨晩小規模ではありますが例のあれが発生しましてね……と、失礼。例のあれというのは閉鎖空間と呼ばれるものです。昨晩僕が一般でいう超能力を有しているということはお話しましたね。閉鎖空間とはその超能力を発揮することが出来る空間を意味しています」
古泉は俺の返事には頓着しないような長台詞を滔々と喋り出した。
「この閉鎖空間というのが、涼宮さんの有する能力に大きく関与しています。……そうですね、ものはついでです。部室の方で具体的にお話しましょうか」
そう言うと、古泉は腕に嵌めている時計に目をやり、「時間はまだあります」と付け足した。
それに頷きで返す。
……俺が今持っている情報というやつは皆無に等しい。
かなり胡散臭くはあるのだが、こいつの話に耳を傾けても損はないだろう。
「分かりました。では、部室の方へ」
先導を取るように古泉は階段を昇り始めた。

536 名前:[] 投稿日:2008/04/12(土) 00:29:05.68 ID:HSVI2d2uO

頑張って書くが、期待裏切ったらすまんw


>>533


「どうぞ。座ってください」
部室の扉を開くと、そこには当たり前のようにというべきか長門の姿があった。
窓際にあるパイプ椅子に腰掛けて膝の上に広げ本を読んでいた長門は、こちらを一度見上げると、そのまままた紙面へと目線を戻している。
古泉はというと、「どうも長門さんこんにちは」なんて挨拶の言葉をかけ、自分は椅子に座らずに俺にそれをすすめた。
「お茶でも飲みましょうか」
「ああ、そうだな。すまん」
古いパイプ椅子に座ると、ギシリという音がした。
「…………」
「……どうかしたか?」
一度俺の方を見た古泉の表情が気になって、俺は再び茶の用意をし始めた古泉の背中に言葉を投げた。
「いえ、何でもありませんよ」
古泉は穏やかにそう言うと、それぞれの湯飲みに茶を注いだ。

543 名前:[] 投稿日:2008/04/12(土) 00:58:13.88 ID:HSVI2d2uO

>>536


「どうぞ」
長門と俺にそう言って茶を渡すと、古泉もまた椅子に腰をかけた。
「それでは、先程の続きを」
「ああ」
「どこまでお話しましたか?……ああ、閉鎖空間と彼女の能力についてでしたね」
そうだ。
俺は古泉のいれてくれた茶に口をつける。
味に関しては分からんが昼食後にはちょうどいい。
ふう、と一息をつくと、それをきっかけにしたように古泉が口を開いた。
「涼宮さんは世界を左右する強大な力を有している。昨晩そう説明しましたね。まさしく閉鎖空間こそが、彼女の持つ能力の一端にあるんです」
……どういう意味だ。
「つまり涼宮さんこそが件の閉鎖空間を生み出している……ということです」
なるほどな。
「閉鎖空間において彼女は鬱憤や不満を解消します。<神人>と僕達が呼んでいる巨人に街を破壊させるという手段を用いて。あなたも以前訪れたことがあるんですよ。一度は僕と。そしてもう一度は涼宮さんとです」
そう言われて頭の中を探ってみるが、めぼしい心当たりはないといって等しい。
俺は古泉の微笑みをぼんやりと眺めた。

549 名前:[] 投稿日:2008/04/12(土) 01:37:01.29 ID:HSVI2d2uO

>>543


「それで、……それが昨夜も出現したってわけか」
改めて見てみると、古泉は少し疲労の溜まったような顔色をしていた。
「ええ。恐らくはあなたの記憶が失われたことが原因と思われます」
浮かべていた微笑みを打ち消し、古泉はやや固い声でそう言った。
「あなたの記憶が失われたことで彼女は随分と動揺したようです。これは僕の憶測なのですが、これからあなたの記憶が戻るまで閉鎖空間は発生し続けるでしょう」
これに俺は沈黙で答えた。
信じるか信じないかはまた別の問題として、古泉の言葉は暗に早く記憶を戻してもらわないと困ると言っていたからだ。
「……失礼。責めているわけではありません。あなたの置かれた境遇はきちんと理解しているつもりです」
そうか。
俺はまた茶を啜ると、溜息をついた。
涼宮ハルヒの持つ能力、そこに集う超能力者、未来人、そして宇宙人。
俺はどこまでそれを受け入れていたんだ。

555 名前:[] 投稿日:2008/04/12(土) 02:14:30.14 ID:HSVI2d2uO

>>549


「俺が悩んでいたと言ったな」
「長門さんの言葉を借りるなら、あなたはとても不安定な精神状態にいたようですね」
「古泉、お前は何で悩んでいたと思う」
「そうですね……」
考えを巡らせるように古泉は目を伏せた。
その場に沈黙が落ちる。
長門がページをめくる静かな音が、控え目に室内に響いた。
「僕の方に心当たりはありません。最も無難な線でいくのなら、涼宮さんの言動について悩んでいたというのが挙げられますが、それも今更でしょう」
古泉はそう言って窓の外に目を遣る。
「僕の方も、最近忙しくしていましてね。あなたのことに気を配る余裕がなかったのかも知れません。今となってはそのことが悔やまれますが……」
言葉を濁し、古泉は俺を見た。

559 名前:[] 投稿日:2008/04/12(土) 02:52:52.14 ID:HSVI2d2uO

>>555


「ところで、例の手紙を見せていただけませんか?」
口元に申し訳程度の微笑みを浮かべた古泉がそう言うのを聞いて、俺は一つ頷いた。
制服の内ポケットにしまってある手紙を取り出し、目の前に座っている古泉に手渡す。
「ありがとうございます」
手紙を受け取った古泉は、礼を言ったかと思うとその小さな紙切れを子細に見始めた。
「なるほど……確かにあなたの筆跡ですね。まず間違いなくあなたが書いたものでしょう」
紙切れをひっくり返し、裏に何も書かれていないことを確認している古泉を見ながら俺は頷いて口を開く。
「この手紙が誰に宛てられたものかさえ分かればいいんだがな」
「文面から判断すると親しい相手に宛てられたというのが分かりますね。あなたの対応から見てこの手紙を受け取るのが朝比奈さんでないことも分かります」
何でそう言える。

569 名前:[] 投稿日:2008/04/12(土) 03:39:29.80 ID:HSVI2d2uO

>>559


「記憶を失う前のあなたも、常に朝比奈さんに対して敬語を用いていたからです。僕の知るかぎりではありますが、この文面にあるような口調で話していた記憶はありません。ですから朝比奈さんは除外してもいいと言えるでしょう」
なるほどな。
「けれど僕の考えが及ぶのもそこまでです。そもそもこの手紙の相手がSOS団に所属している人間とは限らないということを鑑みても、正解を引き当てることは困難であると言えるでしょうね」
古泉はそんな風に見解を締め括り、
「そろそろ時間のようです。戻りましょうか」
壁にかけてある時計を見ると、予鈴まで後少しもなかった。
俺は頷いて立ち上がる。
「湯飲みに関しては僕が洗っておきましょう」
手伝うかと尋ねると、大丈夫ですよと答えられた。
ここは素直に従っておくことにする。

571 名前:[] 投稿日:2008/04/12(土) 03:56:49.91 ID:HSVI2d2uO

>>569


「何か困ったことがあれば言ってください。僕に出来ることは限られてはいますが、その範囲内でしたら何を差し置いても力になりますよ」
部屋を出る間際、古泉がそう言った。
振り返る。
古泉はこっちを見ることなく、湯飲みを重ねているところだった。
「……古泉」
茶うまかったぞ、何となくそう礼を言いかけたとき、ちょうど予鈴が鳴り響いた。
タイミングを逃した俺はそのまま口をつぐみ溜息をつく。
「また後でな」
それだけを言って、俺は部室を後にした。

574 名前:[] 投稿日:2008/04/12(土) 04:40:30.32 ID:HSVI2d2uO

>>571


放課後。
「あんたの記憶が戻りそうな方法見つけ出してくるわ!」
と授業が終わるなり走って行ってしまった涼宮に何やら悪いことが起こりそうな予感を感じながら、俺はとりあえず部室へと向かった。
家に帰ったってよかったんだが、なぜか足がそっちに向いちまった。
身についていた習慣というやつだろうか。

自分が転げ落ちた階段を通りすぎ部室のドアを開けると、そこにはまだ誰の姿もなかった。
いつだって誰かがいるようなイメージが無意識のうちにあったのか、誰もいない部室というのは妙に寒々しい。
とはいえ帰る気にもなれず、部屋へと足を踏み入れた。

と、机の上に何やら走り書いた跡のあるルーズリーフが置いてあるのが目に入った。

577 名前:[] 投稿日:2008/04/12(土) 05:16:38.47 ID:HSVI2d2uO

>>573


そこには体調不良の為今日は早退する旨が書き込まれていた。
署名は古泉となっている。
案外雑な字で書かれたそれを繰り返し二度読んで、俺はその紙片を元通り机に置いた。

その時、特に何を思うわけでもない一瞬の思考の空白を縫うように、唐突に携帯が震え出した。
ポケットからそれを取り出して携帯を開くと、そこにはメモリに登録されていないらしい番号が並んでいる。
訝りながら通話ボタンを押し、耳に当てると、静かな女性の声が聞こえた。
「突然失礼します。今すぐに校門まで来ていただけますか」
「……誰ですか」
「森です。……と言っても今のあなたはご存知ではないでしょう。そうですね、古泉の同僚……とでもいいましょうか」
なるほど、確かに話す雰囲気にさえ古泉と似たものを感じるな。
それは口に出さず、俺は今すぐに校門に向かわなければならない理由を尋ねた。
「それをお話している時間が惜しいのですが、手短に言うと古泉を含めた同僚達の危機だからです」
危機?
そう尋ね返すと、ちっとも危機を感じさせない声がそれを肯定した。

579 名前:[] 投稿日:2008/04/12(土) 05:43:34.60 ID:HSVI2d2uO

>>577


「……分かりました」
危機と言われればしょうがない。
俺がそこに行くことに何の意味があるのかは分からんが、とりあえず相手から火急で必要とされているのだ。断る理由もない。
「助かります。それでは、お待ちしております」
その言葉を最後に電話は切れた。
携帯をポケットに押し込みながら、来たばかりの部室を後にする。
古泉を始めとする同僚達の危機、という言葉がやけに頭を回った。
昼間聞いた話じゃ、閉鎖空間とやらで<神人>と呼ばれるものの存在を相手にしているそうだが、その関係なんだろうか。
危機。
穏やかな古泉の微笑みには無縁そうな言葉にも思えるその単語は、だからだろうかあまりうまくイメージすることが出来なかった。

581 名前:[] 投稿日:2008/04/12(土) 06:20:58.98 ID:HSVI2d2uO

>>579


「お待ちしておりました。さあ、こちらへ」
そう言ったのは、はっとするほど美人な女性だった。
女性が乗ってきたのだろう黒塗りのタクシーは校門脇の目立たない位置にひっそりと停まっている。
車に乗り込むと白髪の老紳士が運転席から頭を下げた。
隣に座る年齢不詳な女性と俺が顔見知りであったらしいように、この老紳士とも俺は知り合いだったのだろうか。
「新川。急いでください」
凛とした声が鋭く指示を飛ばした。
新川と呼ばれた老紳士は頷き、見掛けによらないハンドル捌きで車を発進させる。
「……危機っていったい何なんですか」
軽やかな走行音だけが響く車内で、そう聞くことが出来たのは国道に出てしばらくしてからだった。
「そうですね。お話しておく必要があるでしょう。古泉はどこまで話しましたか?」
俺は昼間古泉から聞いた話をかい摘まんで説明した。

583 名前:[] 投稿日:2008/04/12(土) 06:49:57.04 ID:HSVI2d2uO

>>581


「古泉が話した通り、我々は閉鎖空間を処理することを役割の一つとして捉えています。通常閉鎖空間というものは、そこに発生する<神人>を撃墜することにより消滅します。
撃墜は予定調和なものでそう難しいことではありません。ですから閉鎖空間もそこ数時間のうちに解消されるのが常です」
森さんはまっすぐに進路を見つめたまま、
「しかし今回発生した閉鎖空間は、すでに120時間を経過してもそこにあり続けています。我々の総力をもってしても撃墜することの出来ない<神人>。今までにこのような現象は起こりませんでしたから、当然我々は戸惑いました」
新川さんの運転は止まることを知らないようだった。
事実今までに一度も赤信号に引っ掛かったということがない。
俺は森さんの話を聞いて、ようやくこの車がどこへ向かっているのか分かった。

587 名前:[] 投稿日:2008/04/12(土) 07:22:52.25 ID:HSVI2d2uO

>>583


「お恥ずかしい限りですが、我々の力ではこれ以上どうすることも出来ません」
「それで、俺を呼んだんですか」
その通りですと森さんは頷き、うっすらとした微笑を俺に向けた。
「この事態を切り抜けるためには、あなたの力が必要だという結論を『機関』は選択しました」
ちょうどそのとき車が失速しはじめ、静かに停まった。
目的地についたようだ。

そこは隣町の中枢にあるファーストフード店の駐車場だった。
意外なところが目的地だったことに少し驚く。
促されて車を降りると、車の反対側から回ってきた森さんがそっと俺の手を取った。
こんなときに何だが、そのやわらかな感触に心拍数が上がるのが分かる。
「目を閉じていてください」
言われるままに目を閉じる。
そのまま、森さんは俺の手を引いて数歩足を進めた。
いったいこれにどんな意味があるんだ?
そう思うころ、森さんの声が目を開けるよう教えてくれた。

592 名前:[] 投稿日:2008/04/12(土) 08:20:15.30 ID:HSVI2d2uO

>>587


目を開けると、そこは一面の灰色だった。
車を降りたときに感じた賑やかな雑踏の音も、行き交う人の群れもない。
晴れていた空は急激な雨雲に覆われたように濃い灰色に染まっていたが、おかしいのはそこに雲らしきものが見当たらないことだった。
ただのっぺりとした灰色だけが広がっている。
そしてその空を背景に、巨大なコバルトブルーの怪物が今まさに腕をビルへと叩き付けていた。
「これが、閉鎖空間です」
あまりのことに呆然としていた俺を我にかえらせたのは、隣から聞こえた森さんの声だった。
背後にはまるで執事のように新川さんが控えている。
「そしてあれが<神人>と呼ばれている存在です」
ビルが轟音をたてて崩れ落ち、いとも簡単に粉砕されていく。
それにさえ顔色一つ変えず、森さんは静かな目で青く発光する怪物を見つめていた。

619 名前:[] 投稿日:2008/04/12(土) 13:38:08.16 ID:HSVI2d2uO

>>592


「行きましょう」
ついてきてください、と森さんが言った。
<神人>との距離はおよそ1キロほどだろうか。
なのにも関わらずまるでそんなものは存在しないかのように森さんは近くのビルへと足を向けた。
ただここに突っ立っているわけにもいかず、とりあえずその後を追う。
無言のままビルを最上階まで昇り屋上に出ると、そこにはいっそ圧巻としか言いようのない光景が広がっていた。
何だ、これは。
映画か何かの撮影だって言われた方がまだ信じられるぞ。
見渡すかぎりのあらゆる色はグレースケールで置き換えられたようになっていた。
例外はただ三つだけだ。
俺達とそしてあの巨人、それから、その巨人の周囲を忙しく飛び回る赤い何か。
その赤い物体は何の事情も分からない俺から見ても劣勢だった。
さっきから巨人の攻撃を辛くも避けてはいるが、避けきれなくなるだろうことはその動きが鈍くなってきていることで分かる。
一度、二度、三度。
避けきれたと思った三度目で巨人の腕に弾かれたらしい。
赤い物体は半ば吹き飛ばされるような形でこの屋上の上に降り立った。

621 名前:[] 投稿日:2008/04/12(土) 13:38:59.16 ID:HSVI2d2uO

>>619


「もう無駄なことはおやめなさい」
隣に立った森さんが、まっすぐに巨人を見据えたまま静かに言った。
「無駄かどうかはやってみなければ分かりませんよ」
若干痛みを堪えるような苦しげな声ではあるが、森さんの冷ややかな勧告に抗ったのは制服姿の古泉一樹だった。
「それより森さん、随分手荒ではありませんか?僕は彼を巻き込まないでほしいと言ったはずです」
「こうするより他ないということをあなたももう知っているはずよ」
そこで初めて森さんは自分の後方に立っている古泉へと僅かに振り向いて見せ、その目線を流した。
「それが『機関』の選択ですか」
「そう。上は彼女が彼を殺すことは出来ないという判断を下したわ」
「新川さんもそれに納得を?」
やや詰るような口調で古泉に問われた新川さんは沈黙を答えとしたようだった。
「……ふざけないでください。彼を何だと思っているんですか」
古泉の憤った声が静まり返った閉鎖空間に響く。
「現状維持が私達の望みよ」
「彼はその内に入っていないと?」
森さんは答えなかった。
古泉から<神人>へと視線を移して唇を引き結ぶのみだ。

622 名前:[] 投稿日:2008/04/12(土) 13:39:48.82 ID:HSVI2d2uO

>>621


その場に訪れた一瞬の沈黙の後、一番最初に口を開いたのは古泉だった。
「離れてください!森さんはあなたをあの<神人>と接触させるつもりです!」
「……新川、おさえて」
低く森さんの指示が飛ぶのと同時に、新川さんが古泉を捕らえる。
その古泉の言葉で、俺は今までの「彼」という代名詞すべてが自分を指すのだということに気付いた。
そして「彼女」が涼宮を指すのだということも。
「森さん、いったいどういう意味ですか」
くそっ。まったくもって何で記憶を失っているときに限ってこういう事態に遭遇しちまうんだか。
今の俺にはこの人達を判断する材料がない。
敵なのか味方なのかさえはっきりしない相手についてきたのは失策だったと、俺は本気で後悔していた。
あの時、せめて俺は古泉本人に確認を取ろうとすればよかったのかもしれないな。
この閉鎖空間で携帯の電波が通じるかどうかは、はなはだ疑問じゃあるのだが。

623 名前:[] 投稿日:2008/04/12(土) 13:41:57.68 ID:HSVI2d2uO

>>622


「さっきお話した通りです。……この閉鎖空間は発生して120時間以上が経過しています。このままこの空間がここへ定着してしまうことは、我々が何よりも避けたい現象です。
……けれど今現在この閉鎖空間における<神人>は、涼宮ハルヒさんの精神と、通常の<神人>よりも強く結び付いてしまっています」
森さんは俺の方を見ると、さっき車の中で見せたような淡い微笑みを浮かべた。
「これがなぜ起こっているのか、なぜ特定の閉鎖空間のみに優位性が現れたのか、その具体的な原因は我々には分かりません。それはそこにいる古泉も同じでした」
激しい音を立てて、また一つビルが崩壊する。
すでに<神人>の近くで残っているのはこのビルだけになってしまった。
後はすべて瓦礫と化している。
「『機関』はこの<神人>とあなたを接触させることで、何らかの現状打破が可能であると判断しました。……私達か望むのは平穏な日常の維持です。ご理解いただけますね」
音もなく<神人>がこちらに向かってくるのが分かった。
まったく……考える暇さえ与えちゃくれないとはね。
俺は完璧な微笑みを浮かべる森さんの顔を見て、それから未だ新川さんに取り押さえられている古泉の方を見た。

624 名前:[] 投稿日:2008/04/12(土) 13:42:51.94 ID:HSVI2d2uO

>>623


その古泉が俺の名前を呼ぶ。
「何が起こるか分かりません、止めてください!」
そう言うがな、古泉。
現実にはそう選択肢を選べるような状況じゃなさそうだぞ。
お前が俺を気遣ってくれるのはよく分かるし、ありがたいと思ってるさ。
けどな、俺だってお前ばかり苦労をしているのを見ながら、見て見ぬ振りが出来るような人間じゃない。

前を向き、溜息をついた。
正面の位置にいる<神人>はまっすぐに俺を目指しているようだ。
あながち『機関』とやらの判断も間違っちゃいないのかもしれんな。
「森さん」
「……はい」
「死んだら恨みますからね」
前に一歩足を進めた。
<神人>との距離はもう目と鼻の先だ。
その<神人>が、ぬぅっとした動きでこっちに手を伸ばすのが分かった。
その手だけで俺を叩き潰せそうな大きさだ。
なんてこったい。
やっぱり止めておけばよかったんじゃないか?
そうもう一人の自分が心の中で囁くのを聞いたとき、<神人>の手は俺の全天を覆い、


…………そして俺の意識はそこで途切れた。

631 名前:[] 投稿日:2008/04/12(土) 15:12:18.23 ID:HSVI2d2uO

>>624


夢を見ていたような気がする。
何か途方もない夢だ。
徐々に覚醒する意識の中、俺はうっすらと目を開けた。

ぼんやりとした視界に写る天井を眺める。
見覚えはない。
……いや、あるな。
この白い天井と白い壁紙はいつぞや俺が世話になった病室のものだ。
なら、付添人として隣にいるのはもちろん、
「おはようございます」
やっぱり古泉か。
「すみません。今回はこのような事態になってしまいまして」
あーあーいいよ。
こうして生きてるんだしな。
それにお前が望んだわけじゃないだろ。
「僕としてはあなたを巻き込みたくなかった。これは僕達に与えられた課題ですし、何よりあなたは記憶を失っていました」
記憶。そういやそうだったな。
そんなことを考えながら古泉の顔を見る。

632 名前:[] 投稿日:2008/04/12(土) 15:13:17.72 ID:HSVI2d2uO

>>631


おい古泉、何て顔してやがる。
いつもの嫌味なくらいの微笑みはどうした。
「こんなときにまで笑えるほど、僕は出来た人間じゃありません。これでも結構ショックを受けているんですよ」
そう言って、古泉は淡い自嘲を浮かべて見せた。
「結果から申し上げますと、あなたが接触した<神人>を含めた閉鎖空間は、あなたが接触した瞬間から収束を始め、今現在はすべて消滅しています。
もちろんあなた自身にも何ら後遺症的な症状や外傷は残っていません」
『機関』の判断は正しかったというわけか。
「そういうことになりますね」
古泉は疲労も隠さずに溜息をついた。
「古泉」
はい、何でしょう。
と律義な返事を返す古泉に、俺は労いの笑みを向けた。
「お疲れさん。『機関』に礼を言うのは癪だからお前に言わせてもらうよ。……ありがとな」

633 名前:[] 投稿日:2008/04/12(土) 15:15:50.32 ID:HSVI2d2uO

>>632


その時の古泉の表情はどう言えばいいか分からないな。
とにかくまあ普段のやつらしからぬ表情だったとだけ言っておこう。


こんな風に、俺の記憶喪失の騒動は幕を降ろした。
そう。
目が覚めたときすでに俺は記憶を取り戻していた。
後日古泉とその話になったときにやつが言った言葉は、
「恐らく階段から落ちて受けた衝撃に似たダメージをあの<神人>と対峙したときに受けたのでしょう。それで記憶が元に戻ったのだと思われます」
というものだった。
まあなんだ、つまり不安定な状態だったことと記憶がなくなっちまったことに関係はなかったということになる。

更に言うならばあの紙切れは、SOS団員宛ではないかもしれないという古泉の危惧通りだった。
あれは谷口に出す予定のものだったのだ。
それも実にくだらん理由でな。
にもかかわらずあんな人騒がせなことになってしまったのもあって、実はまだこのことは誰にも言わずにいる。

終わりよければすべてよしと言ったもので、あれから一週間経った今ではまああれはあれで悪くなかったんじゃないかとさえ思えてくる。
もちろん死ぬような目に遭うのは今後も一切御免被りたいが、少しくらいのスリルはあってもいいんじゃないかと思うのだった。

634 名前:[sage] 投稿日:2008/04/12(土) 15:18:43.30 ID:HSVI2d2uO

古泉友情ルート終了


待たせて申し訳なかった
支援、保守してくれた人、徹夜に付き合ってくれた人本当にどうもありがとう!
スレ占領本当にすまない



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