涼宮ハルヒの選択 - Endless four days - 1週目 3日目


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88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:09:02.05 ID:J4dircPH0

薄目に時計が映り込む。午前7時過ぎか……まだ時間的な余裕はたっぷりあるな。
寝返りを打って布団を頭から被る。本当はつい数分前から覚醒していた俺だったが、
窓から差し込む朝日に当てられて、ぐずぐずと起きるのを躊躇っていた。
春眠暁を覚えず。俺がその例に違わず春の眠りを満喫して何が悪い。

「キョンくーん、朝だよー!」

だが残念なことに。

「やっぱり寝てるー」

それを許さぬ小悪魔が、家に一匹棲んでいる。

「もう、しょうがないなあ」

面倒だ、という割に声が弾んでいるのは、俺の幻聴ではない。
と、次の瞬間に飛び跳ねる音がした。一、二、三――今だ!
思いっきり身を捻って、体ごと脇に転がり落ちる。
それと同時に、俺が寝ていた場所で

「あむっ……んー、んー」

というくぐもった呻き声が聞こえた。
立ち上がって確認すれば、そこには案の定、毛布に絡まって足をばたばたとさせている妹の姿が。
良い具合に絡まってるじゃねえか。何時もやられっぱなしだと思ったら大間違いだぜ。
俺は、

1、いい機会だ。ちょっと苛めてやろう。
2、急いで支度するか。たまには早く登校するのもいい。
>>593までに多かった方

591 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/07(金) 15:17:43.58 ID:s1dcvMpyO

2

592 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/07(金) 15:23:34.14 ID:d8XhuRqC0



593 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/07(金) 15:25:00.26 ID:KWJMKkIU0

2かな。ハルヒの驚いた顔が見れるかも試練

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:10:41.49 ID:J4dircPH0

「さらば妹よ。お前の兄に生まれてよかったぜ」

と嗚咽混じりに言い残し、支度をすることにした。
たまには早朝に登校するのも悪くない。普段とは違ったやつらと会えそうだしな。
妹は――まあそのうちこの家の誰かに救助されるだろう。それまで春眠のありがたさを味わっているがいいさ。
蛇足だが。妹が次の朝から、変則的かつ強力無比なニードロップを仕掛けてくるようになることを、その時の俺は知る由もなかった。

――――――――――――――――――――――

歩きなれ過ぎて、眼を瞑ったままでも歩いていけそうなハイキングコースを、今日も歩く。
朝の冴えた空気は心なしか美味しく感じられ、淡い陽光は徐々に体温を上げてくれる。
うん、今日の滑り出しは快調だ。
たまに見かける北高の生徒は、時間帯が違う所為だろう、知らない顔ぶればかりだったが、
その中に後輩らしき男女の連れを発見して、俺は後ろからその様子を眺めていた。幽かに声が聞こえてくる。

「もう――って言ってるでしょ!」
「わりぃわりぃ―――だったんだよ」

漠然と。その知らないはずの二人を、よく知っているような予感がして。
郷愁の念にも似た、妙な情動に襲われた――その時だった。

「なーに朝っぱらから辛気くせぇ顔してんだよ、キョン!」

ドン、と背中に衝撃を受けて前のめりになる俺。相手が一瞬であの野郎であることを理解し、

「やれやれ」

面倒なヤツにあっちまった、と言葉ならずとも身振りで表現する。これも一重に、古泉演技指導教官の教授の賜である。

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:14:25.80 ID:J4dircPH0

「ひでぇ………お前がそんな冷酷なやつだとは思ってなかったぜ」

が、存外谷口は俺の演技を真に受けたようで、壁に向かってさめざめと泣いている。
分かった。俺が悪かったから、いい加減近隣住民の方々が奇異の視線を向けていることに気づいてくれ。

「にしても、二日連続でお前に出会うとはな」

谷口と朝一緒になることなんて、多くて週に二回程度。
二日連続なんてのは入学当初から記憶を洗っても、数えるほどしかない。
そんな俺の感想に、哀咽から立ち直った谷口は、

「なに寝ぼけたこといってんだよ。俺は大抵この時間帯だ。
 今朝あったのは、お前が妙に朝早くに登校してきたからだろ?」

的確な指摘に得心する。

「まったくお前の言うとおりだ」

しかし谷口は、俺が先刻の非礼を詫びる前に

「おうよ。ま、そんな勘違いはいいとして、なんで低血圧のお前がこんな朝早くに――」

不自然に語尾を切って俺の後方三十メートルあたりに眼を凝らし

「あー、俺先に行くわ。俺はこう見えても空気の読める男なんだよ」

足早にハイキングコースを上り始めた。ニヤニヤと、性根の悪そうな笑みを残して。
学校に用があったのかもしれないな。アホの谷口の行動一つ一つに濫觴を求めていたら、キリがない。
適当に思考を切り上げて、さっさと学校に向かうことにする。
だが、ふと背後まで迫っていた足音がやんだのが気になって、俺は首を捻った。

95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:17:51.51 ID:J4dircPH0

「こんなとこで何してんの、あんた」

整った目鼻立ちにセミロングの黒髪、そしてこれ以上にないほどに目立つ黄色いカチューシャ。
果たしてそこには、ハルヒが仁王立ちで佇んでいた。
これは毎度感じることなんだが、結構な身長差があるはずなのに、それを実感できないのは何故だろう。
威厳の差か?

「いや、さっきまで谷口がそこにいたんだが……」
「朝っぱらから谷口に捕まるなんて、あんたも災難ねー」

まったくだ。早く起きられて、喜んでた矢先にこれだもんな。

「そういえばあんたがこんな時間に登校するなんて珍しいじゃない。丁度いいわ。一緒に行きましょ」

極自然に、並んで歩き始める俺とハルヒ。

「―――それでね、有希ったらこの前――信じられる?――」
「――ほんとかよ――――俺も居合わせたかったな―――」

とりとめのない会話は続く。すぐに枯渇するかと思われた会話の種は、
しかし途切れることもなく。俺とハルヒは、穏やかな朝の登校風景を描いていた。
ふと。眼窩に、先ほどの後輩たちの会話が再生される。
今の俺たちはあの二人に似ているようで、何処か違っていた。
そう、それは――分かってしまえば失笑してしまいそうなほどあっけなく、
同時に、切欠がなければずっと正体が掴めないような違和感。

「……まだ完全に起きてないんじゃないの? しゃんとしなさいよね、しゃんと」

ハルヒの声に我に返る。特にわけもなく、ハルヒの凛とした声なら、どんなに眠い朝でも眼が覚めそうだな、と思った。

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:18:53.51 ID:J4dircPH0

――――――――――――――――――――――――――――――――

いざ到着してみれば、校舎の壁に設置された時計の針は、
俺が想定していた到着予定時刻よりも、随分若い数字を指し示していた。
自然と、しゃきしゃきと歩くハルヒに歩調を合わせていたのだろう。

こんな時間に登校するのは特別な用事があるヤツか、誰かと適当にだべりたい暇人と相場が決まっている。
従って昇降口から教室にかけての廊下に人影は少なく、俺は新鮮な校内の一面を垣間見ることができた。
しかし――厳粛な雰囲気漂う廊下と対照的に、無駄に活気があるのが俺たちのクラスなわけで。

ドアを開けた瞬間。がやがやとHR前のお喋りに勤しんでいたクラスメイトたちの視線が、こちらに集中する。
なんだこの生暖かい視線は。気にせずお喋りに戻ってくれていいんだぞ。

「えー、おはよう、涼宮とキョン」

と、ドアを開けて硬直している俺たちの元へ谷口がやってきた。
お前、一度通学路で会っただろ。その仰々しい口調は何なんだ。

「俺がこういうことを言うのもあれなんだが」

谷口はニヤニヤ笑いを隠そうともせずに口を開き、

「お前らさ、朝から熱すg「黙りなさい」

叩き潰すような詰斥の元に沈黙した。
ハルヒの顔は先ほどまでの微笑のままなのだが、なんというか、凍っている。
いつものハルヒなら、谷口の戯言をまるで羽虫を扱うように無視するんだが……何か気に障ることでも含まれていたのだろうか。
それからハルヒはずんずんと席に向かい、拗ねたように窓に視線を投げて頬杖をついた。

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:21:56.68 ID:J4dircPH0

谷口はまるで冷凍保存されたマグロみたいに大口を開けたまま硬直している。
んー、前衛的なオブジェに見えんこともないな。このまま教室に飾っておくのもいい。
がしかし、芸術性は皆無な上とても邪魔なので解凍してやることにした。

「おい、起きろ谷口」
「……はっ! 涼宮のヤツ、あんなに怒らなくたっていいのによー」

あのな、冗談半分でもあいつをからかうのはやめてくれ。
そのしわ寄せは後処理は、全て俺にまわってくるんだよ。しかも1.5倍増しで。

「へいへい」

……もう何も言うまい。
さて。HR前の雑談は恒例行事なわけだが、今日はHRまでまだまだ時間がある。
ここは―――

>>647
行動対象自由記入(学校にいるであろう人物名に限る)「      」

647 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/07(金) 20:08:06.55 ID:8b/1eH6L0

ハルヒ

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:24:09.74 ID:J4dircPH0

早朝という慣れない時間の潰し方を、暗中模索する。
SOS団部室には誰もいないだろうし(ひょっとしたら長門が読書しているかもしれないが)
朝練で扱かれている部活の中に、俺の知り合いはいない。グラウンドに行っても無駄だ。
こんな平凡極まる北高の屋上、体育館裏、無人のプールサイドで超常現象が起るはずもないし。
ハルヒなら行きそうだけどな。それに第一、俺はアクティブな人間じゃない。

かくして。俺は体を捻らせて壁に背中を預け、

「おい、ハルヒ」

恒例のHR前雑談20分拡大版を企画したのであった。

「なあに?」

グラウンドを走る人影を追いかけていた瞳が、こちらに動く。
ハルヒの言葉遣いは柔らかかった。谷口の意味不明な失言も、既に記憶の彼方だろう。
だが……特に話のタネは用意していないし、雑談といっても登校時に語り尽くしたしな。
何について話そうか?

1、そういや朝一緒に登校するの、久々だったよな
2、明日のテーマパークの件について、話し合おう
3、さっきはどうしたんだ 谷口、固まってたぜ?
>>657

657 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/07(金) 20:25:51.51 ID:d8XhuRqC0



103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:25:34.93 ID:J4dircPH0

ここは何か建設的な話題を―――することもないか。
一見非生産的な行動が、後々意味を成すことは多い。俺の人生史がそれを証明しているからな。
うーん……ついさっきハルヒが最強の威圧感を以て谷口を黙らせたワンシーンについて、徹底リサーチしてみるか。

「さっきはいきなりどうしたんだよ。谷口のやつ、彫刻みたいに固まってたぜ?」

質問はシンプルかつ相手が答えやすいようするのが基本だ。
そして俺の質問は、まさにそのテンプレートの的を得ていた。

「…………」

だがハルヒはそれに答えることなく、ぷい、と顔を逸らしてしまう。
不味いな、雑談の出足からくじかれた。どうやらハルヒの怒りは、まだ鎮火されていなかったようである。
ちょっと聞いてみるつもりが、燻っていた火に油を注ぐ結果となってしまった。

「おい、まだ谷口に怒ってるのか?」

反応はない。堪りかねて、ふくらんだハルヒの頬を押してみる。
いい加減こっち向きやがれ。

「な、ななっ……!」

するとどうだろう。RPG的な表現をするならば効果は抜群といった風に、ハルヒはびくりと身を震わせた。
あ、いや、そこまで脅かすつもりはなかったんだが。

「あんたって本当に……」
「本当に?」
「…………ばかね」

俺の頭中に疑問符が席巻する。理不尽な暴言には慣れちゃいるが、脈絡もなしに馬鹿とは傷つくね。 

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:27:21.76 ID:J4dircPH0

ま、ハルヒが忘れたがっていた事柄をぶり返したのは良くなかったかもな。
猛省とまではいかないが、反省してしかるべきは俺だ。

時間を確認すれば、まだHRまでには10分ほどの猶予が残されていた。
何か話すにしても、あと一つぐらいが限度だろう。

1、そういや朝一緒に登校するの、久々だったよな
2、明日のテーマパークの件について、話し合おう
>>686

686 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/07(金) 20:58:47.97 ID:3oGbPqZq0

王道で2

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:39:23.23 ID:J4dircPH0

「あ、そうだ。昨日言ってたテーマパークについて、詳しく教えてくれないか」

昨夜十分に話し合えなかったことを煮詰める必要がある。
ハルヒは心なしかむすっとしているように見受けられたが、予想に反してすぐに言葉を返してくれた。

「詳しくって言われてもね。何が聞きたいの?」
「ほら、どんな遊具があるとかさ」
「そうねー……中にあるのは、既存の遊園地と大差ないって話よ?」

その言葉に小さく落胆する。俺としては、新感覚の次世代アトラクションなんかを期待していたんだが。

「安心なさい。その代わりね、どの遊具の作りも半端な出来じゃないわ。
 あれだけお金を注ぎ込んだんだもの、完成度はそこらの比じゃないんじゃないかしら」

超高速な三次元的移動を可能にした最新型ジェットコースターや、
ホラー映画よりもリアリティのあるお化け屋敷。むくむくと想像がふくらんでいく。

「ほう。杞憂だったみたいだな。でもあれだけ注目集まってるんだし、当日は滅茶苦茶込んでるんじゃねーのか」
「それはあたしも予想済みよ。酷ければ何時間も待たされるかもしれないわ」
「ま、5つでも楽しめたら良い方か。セレモニー当日だし、高望みはしないほうが―――」
「何言ってるのよ」

ハルヒが俺の悲観的予測に口を挟む。
殊勝な笑みが、ハルヒの表情に浸透していく。
ああ、鈍い俺でも分かるぜ。お前はこういいたいんだろう?

「全部制覇するに決まってるじゃない!」
「全部制覇する、に決まってるよな。お前なら」

重なる声と声。分かってるじゃない、と団長様は団員の聡明さにご満悦のようだ。恐悦至極に存じます。

112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:39:55.57 ID:J4dircPH0

それから俺たちは明日の待ち合わせ場所と時間について話し合い、
結論が出たまさに絶妙なタイミングで担任岡部が姿を現し、HR前の雑談は幕を閉じた。

――――――――――――――――――――――――――――――

時は変わって昼休み。ぐぅ、と情けない音が鳴る。
睡眠導入剤という名の鋭利なナイフを手にし、執拗に俺に群がる睡魔どもを追い払うことによって退屈な授業を凌ぐ、
という矛盾だらけの午前中を終えた俺の胃袋は、消費したカロリーを求めて悲鳴を上げていた。
まあ待て。すぐに炭水化物をこれでもかというくらいに放り込んでやるからさ。
机を合わせて手を合わせれば、お待ちかねの昼食タイムだ。

「あー、腹減った。なんで数学の授業はあんなに腹が減るのかねえ」
「谷口、それはね。授業に対する意識の持ち方によって変わってくると思うよ」
「まさに国木田のいうとおりだ。俺が言えたもんじゃないが」

谷口がこの世の何処から掻き集めてきたのか不思議になるくらいに多量の無駄情報を披露し、
それに国木田が的確なつっこみを返し、時たま俺が口を挟むという、二年前から少しも変わらぬ食事風景が展開される。
だが本日の主題提起は谷口ではなかった。国木田は、鯖の皮を丁寧に剥がしながら、

「今日ってあのテーマパークのプレオープンだよね」

それを聞いた谷口は、さも無念そうな表情を形作り苦言を呈す。

「そうなんだよなー。何も平日にプレオープンしなくってもいいのによぉ」
「あのテーマパークが狙ってる顧客年齢層は学生じゃないんだと思うよ。入場料が若干他のトコより高いし」

会話には参加せず黙々と口にご飯を運ぶ俺。
下手に加わればうっかり明日のことについて口を滑らせてしまいそうだ。
そう考えて、口を食べ物で塞ぐことにしたのである。だが空気の読めなさに関してはピカイチの谷口。
俺の急所をつく、見事な一撃を繰り出してきやがった。

113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:41:59.18 ID:J4dircPH0

「なあ。お前らは明日の予定、もう入ってるか?」
「僕はないけど。キョンは明日はアレで無理でしょ?」

もぐもぐとコロッケを咀嚼しながら首肯する。
アレとは勿論SOS団の活動のことだ。ナイスフォロー、国木田。

「………うーん、男二人でテーマパークは流石にねえしなあ……」

煩悶する谷口をおいて、俺と国木田は箸を動かすことに専念する。
どうやら危ない橋は無事に渡り終えられたみたいだな。もし明日のことが谷口にバレたら、どうな凄惨なことになるか想像もしたくないね。
だが。常に俺の期待の光を塗りつぶすのが、谷口なわけでもあって。
もうそろそろ違う方向へと話が向かい始めるかと胸を撫で下ろしかけた、その時だった。

「いいこと思いついたぜ」

谷口は得意げな視線をあたりに振りまくと

「キョン、お前涼宮つれてこれないか。俺と国木田もクラスの女子誘ってみるからよ。
 どうだ。涼宮が嫉妬しない上に、男女比率三対三の完璧なプランだろ?」

そして国木田も追い打ちをかけるように、

「僕がクラスの女子を誘うのが決定事項なのは納得がいかないけど、確かにその計画なら問題はなさそうだねぇ」

二人揃って俺の返答を待っている。逃げ道はない。有り体だが、絶対絶命の大ピンチという訳だ。
よし、ここは――

1、言い訳(ハイレベル)しよう
2、言い訳(低レベル)しよう
3、素直に明日の予定を打ち明けよう
>>728

728 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/07(金) 22:29:07.74 ID:8b/1eH6L0



114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:43:14.14 ID:J4dircPH0

数秒間の思考の末、最善の選択肢を選び出す。
俺が穴だらけの言い訳をしたところで、谷口&国木田コンビには砂上の楼閣に違いない。
ならここは無駄なあがきはせず、正直に話すのが得策か。

「実は……明日は先約があるんだ」
「へぇ、どんな?」

寸暇も与えてくれない谷口。諦観した俺は、洗いざらい話すことにした。
もうどうにでもなれ、だ。

「ハルヒと二人で行くって約束してるんだよ。
 例え向こうで鉢合わせても、悪いがお前らとは別行動になる」
「……………」
「……………」

だがしかし、俺の決死の告白に対する二人のリアクションは、なんとも乏しいものだった。

「えーっとだな。俺、失言しちまったか?」

錯覚に陥る。あちこちから愉しげな談笑が聞こえてくる教室内で、
あたかもこの一角の空気だけが、お通夜のそれに変質してしまったかのような。

118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:52:33.70 ID:J4dircPH0

「ねぇ谷口。どうやら君の提案は、キョンには無用の代物だったみたいだね」
「……なあ国木田。お前はずっと俺の友達だよな………」

雨霰の冷やかしを覚悟していた俺は、意気消沈した谷口と、それを慰める国木田に声を掛ける術を持たなかった。
食い終わった弁当箱を片付けて、席を立つ。最早ここにいる意味はない。
谷口の口から漏れる呪詛のような恨み言が一過性のものであると信じて、俺は午後の授業に備えることにした。

――――――――――――――――――――――――――――――

切れ長の眸子に、懊悩の色が浮かぶ。
退けば死の口に飲み込まれ、待てどもいずれは同じ運命を辿ることとなる。
ならば、残された手段は一つ。口元にあてられていた指先が、
漠然とした不安をを振り切るように「進軍」を命じる。
それは一見、勇猛果敢な強毅の一手のようで―――しかし。

「俺の勝ちだぜ古泉。後はどうあがこうと、お前の王将は詰む」

計算し尽くされた敵陣へと飛び込む、無謀の一手であった。

「おや。確かに詰んでいますね。投了です」

古泉は悔しそうな風もなく、投了を宣言する。こうしてまた、俺の対戦歴に価値のない白星が追加された。

「何度も言ってる気がするが………お前、俺に勝つ気ないだろ」
「いえ、決してそんなことはありませんよ。僕の胸中はいつもあなたへの憧憬と嫉妬でいっぱいです」

なんとも白々しいね。
俺がお前に勝利して快哉を叫べたのは精々最初の一、二回で、その後は勝った気がしないんだよ。

119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:53:50.51 ID:J4dircPH0

なんとも白々しいね。
俺がお前に勝利して快哉を叫べたのは精々最初の一、二回で、その後は勝った気がしないんだよ。

「精進しましょう」

アルカイックスマイルでそう言われてもな。まあいい。
数年後相まみえたときに俺が圧勝しているイメージは想像に難くないが、期待しておくとしよう。

午後の授業とHRを消化しハルヒと共に文芸部室に到着した俺は、現在古泉と将棋に興じている。
だが実際は"興じている"とは言い難い状況であり、古泉には悪いが別のことで時間を潰したい気分だ。
そうだな、たとえば――――

行動対象指定安価(校内の人間のみ)>>773「         」

773 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 00:04:53.73 ID:dwO/hJCF0

長門

121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:55:36.03 ID:J4dircPH0

最近は何かと忙しく、ほとんど長門に構ってやれなかった。
勿論この「構ってやれなかった」は居丈高な意味ではなく、
自分から他人に接触しようとしない長門に話しかけてやれなかった、という意味だ。
荷物棚からチェス盤を引っ張りだし始めた古泉はどうするかって? 捨て置くに決まってるだろ。

「なあ長門。今、話せるか?」

長門はコクリと数センチだけ頷いて、本の頁から顔を上げた。
読書を中断させられたことを怒っているのか、俺の声に耳を傾けてくれているのかは分からない。

「その本、この前図書館で借りたやつだよな」
「そう」
「もう読み終わりそうだな」
「あと少し」
「どうだ、読書家のお前から見て、それは面白かったか?」
「……わりと」

サクサクと会話は進む。

「その本の続編が出たらしいぜ。知ってたか?」

長門はフリフリと首を振った。ボブショートの麗髪が揺れる。

「もしその本がここにあったら、読みたいか?」

長門は小さく首肯した。それは数ミクロンでも数ナノでもない、確かに視認できる頷きだ。
そしてそれを確認した俺は、満を持して鞄の中から一冊の本を取り出した。

「それは……」
「この前図書館で見掛けてな。借りてきたんだよ」

123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:58:14.36 ID:J4dircPH0

長門の元に歩み寄り、本を差し出す。

「読み終わったら俺に返してくれればいいからさ」

カーディガンに半分包まれた手が、本を受け取ろうと手を伸ばす。
その時だった。開けていた窓から、一陣の春風が吹き込み――――
パラパラと、長門が読んでいた本の頁を勝手に捲っていく。
なのに長門は頁には委細構わず、受け取った本を手に俯いていた。

「おい長門―――」

慌てて声をかけても、反応はなく。
ただならぬ様子に不安に駆られた俺は、とにかく頁を抑えようとして屈み込み、


「ありがとう」


消え入りそうな長門のお礼を聞いていた。
再び顔を上げた長門と、俺の視線が交錯する。……確かに聞こえたぜ、長門。

「また図書館行くときは遠慮なく誘ってくれ」

最後にそれだけ言い残し、俺は長門の下を離れた。
時間と共に口数が増えているとはいえ、長門の言葉はとても短い。
洗練された言葉といえば聞こえはいいが、必要最低限の文節のみというのはやっぱり味気ない。
だが―――俺は思うのだ。
琥珀色の瞳に滲む1pxの暖色や、空気に溶けてしまいそうなほどに小さなお礼。
長門の感情の機微は、触れにくいからこそ価値があるんじゃないか、ってな。

124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:59:12.69 ID:J4dircPH0

思わぬ長門の返礼に幸福感に満ち満ちつつ、席に戻る。
テーブルには、一人寂しくパチパチと詰め将棋を嗜んでいる男の姿があった。
その男――古泉だが――は俺を哀切の滲む瞳で一瞥し、

「…………」

無言で駒を進める作業を再開した。なんというか……寂寥感が半端ない。
俺が罪悪感に囚われて声を掛けようとしたその時、

「コホン」

わざとらしい咳払いが聞こえてきた。

「えーっと……今日はみんなにお知らせがあるの」

ハルヒが立ち上がって演説モードになっている。

「明日は特別にお休みにします。各々自由に休日を愉しんでもらって結構よ」

チラリ、と俺を一瞥して、ハルヒはそう宣言した。
そういやこの二人にも明日の活動中止を連絡する必要があったんだよな。
もし忘れていれば、明日長門と古泉は喫茶店で待ち惚けをくうことになっていただろう。
フェミニストにして団長至上主義の古泉は、

「了解しました。僭越ながら、丁度僕も明日は静養したいと考えていまして」

と心にもないであろう返事をする。副団長の鏡だね。
毎週の恒例行事であり、発熱していようと町内探索を敢行するハルヒが
突然理由もなしに活動中止を宣言しても、一切動じない。

127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 17:01:15.41 ID:J4dircPH0

古泉は流し目をこちらに送り、詰め将棋を再開した。
明日の特別休暇が俺に関係していることは、既に見抜いているのだろう。

「ごめんね。じゃ、そゆことだから」

古泉の了承を受けてハルヒが座る。
こういう場合、長門は基本的に返事を返さない。暗黙の了解というやつだ。
だが―――

「………して?」

今日の長門は、何かが違っていた。恣意的な独断専行を許さぬ鶴の一声。
PCに意識を沈ませていたハルヒが、ぎょっとして顔を上げた。

「……どうして?」

誰が想像できただろう。滅多に語尾に疑問符をつけない長門の問いかけもさることながら、
たった四文字の言葉に激しく動揺しているハルヒを。

「あ、あのね、有希。別に明日の休みに意味はないの。だから有希も気にすること――」
「あなたの言動はとても不自然」
「ぐっ……」

ハルヒが長門にやりこめられている様は見ていて面白い。俺はといえば、古泉と共に傍観に徹している。

「あーもう! どうだっていいじゃない。気まぐれよ、気まぐれ」
「なら質問を変える。明日の行動予定を教えて」

ほう、長門のやつも強気に出たな。
ハルヒも正直に明日のことを話してしまえば楽になれるだろうに。

129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 17:03:21.03 ID:J4dircPH0

微温的なハルヒの返答の穴を、長門は正確無比な指摘で打ち抜く。
そんなループが5分ほど続き。
困憊したハルヒが、アイコンタクトを送ってきた。翻訳するとこうだ。

"ちょっとキョン! あんた黙って見てないでなんとかしなさいよ!"

んー、どうするかな。こんな長門は初めてだし、もう少し眺めていたいんだが。
百獣の王が愛らしいひよこにぼっこぼこにされてるみたいで微笑ましいし。
相手が俺なら無理矢理俺の意見をねじ曲げ、
古泉なら華麗にスルーするハルヒも、従順な長門に反旗を翻されると弱い。
ここらで一つ―――


1、助け船を出してやるか
2、ハルヒが根負けするまで眺めていよう
>>890

890 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 11:36:57.34 ID:yctAho950

1

132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 17:06:11.21 ID:J4dircPH0

助け船を出してやるか。この調子じゃ下校時間まで続きそうだし。

「なあ長門。なんでそんなに拘るんだ?」

間に割って入った俺に、長門は拗ねたように手を握りしめて、

「ただの興味」
「何故ハルヒの予定なんかに興味があるんだ?」
「…………」

長門は答えない。やれやれ、いつから長門は反抗期に突入したんだ。
性格変異を目的とした生命情報素子にでも罹患したのか?

「長門。まあ聞いてくれ」

相変わらず口を閉ざしたままの長門に、持論をぶつけてみる。

「人間誰しも、それぞれ自分だけのプライベートを持ってるんだ」
「…………」
「そんでもって、大抵は本人が許さない限り、それには干渉しちゃいけない決まりになってる」
「…………」
「関心を持つのと、立ち入ることは違う。お前だって自分の行動予定を逐一俺に監視されてちゃイヤだろう?」
「…………」
「だからもうかんべんしてやれ。ハルヒも困ってるしさ」

数秒の沈黙。長門は視線を下げたまま、分かった、と呟いた。
しぶしぶといった風ではあったが、納得してくれたことに違いはない。偉いぞ長門。
俺は無意識の内に手を伸ばし、長門の頭を撫でていた。ぽふぽふとした感触が心地よい。

………あれ? おかしいな。何か、有象無形の刃物が俺の背中に突き刺さってるよ?

133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 17:09:05.73 ID:J4dircPH0

振り向けば。腕を組み指をトントンとさせているハルヒと目があった。
ジト目怖い。もしかして俺の出した助け船、喫水線下回ってたり?

「あー、まあ納得してくれたみたいで嬉しいぜ」
「……そう」

逃げるように定位置に舞い戻る。ハルヒの依頼通りにミッションコンプリートしたってのに、このやるせなさはなんなんだ?

「意図していないから恐ろしいですね。逆に賛嘆に値します」
「……??」
「いえ、こちらの話ですよ。お気になさらず」

首を傾げた俺と意味深な言葉を零す古泉、
そして依然顔色の優れないハルヒとどことなく嬉しそうな長門がギクシャクしたまま、本日の活動は終わりを告げた。

――――――――――――――――――――――――――――――

昇降口で皆と別れた俺は、一人寂しく帰路についていた。ハルヒは

「ちょっと用事があるの。でもあんたはついて来ちゃ駄目」

と笑顔で釘を刺して走り去ってしまい(怒っているわけじゃなさそうだったが)、古泉は

「僕も所用がありまして」

と通学路から外れた道に消えてゆき、長門に至っては昇降口に姿を見せなかった。なんでも生徒会室に用があるんだそうな。
というわけで――真っ直ぐ帰宅するか寄り道するかは俺の自由だ。
1、腹減ったし真っ直ぐ帰ろう
2、自由記入(SOS団メンバー以外でも可)→「    」のことが気になるな
>>927

927 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 12:43:56.04 ID:DhE5DLAC0

長門

135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 17:11:02.14 ID:J4dircPH0

ふと、無性に長門のことが気になった。
生徒会室という単語から連想できるのはペルソナ被った生徒会長ぐらいで、少なくとも良いイメージはない。
長門ならあいつの居丈高な物言いに露程も不快に感じないだろうが、やはり不安は残る。
余計な甲斐性かもしれないが。俺は長門の様子を見に、学校に戻ることにした。

137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 17:12:59.67 ID:J4dircPH0

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

下駄箱には長門の下靴があった。綺麗な書体で、漢字が二つ並んでいる。
ホント、几帳面だよな。俺なんて中学の頃から持ち物に名前を書くことが億劫になってたってのに。
ともあれ長門が生徒会室に在室中だということは分かり、記憶を辿りつつ足を進める。
生徒会室の近くに人気はなかった。壁一枚を挟み、中の様子は伺えない。
だが――日頃の所行が良い所為か、はたまた気紛れな神の計らいか。ドアは薄く開いていた。

「――――でしょう――わたしは―――」
「―――そう―――」

黄昏時の空気を、細い声が伝ってくる。途切れ途切れで会話内容を把握することはできないが、人がいるのは確かなようだ。
瞬間、俺の脳内で悪魔と天使の言論合戦が幕を開けた。お馴染みのアレだ。察してくれ。

『覗いて視野狭窄に陥れば、誰かが廊下を歩いてきても気づけない。不審者扱いさるぜ』 確かにそうだ。リスクは高い。
『欲望に忠実になれ。好奇心に従えばいいんだよ』 好奇心に忠実に、か。魅力的な響きだね。
『中にいる誰かに盗み聞きがばれたらどうする』 ああ。その可能性は十分にある。
『うるせえ黙れ。なら黙って帰るのかよ、情けねえ』 一理ある。ここまで来て引き返すのもな。
『俺の合理的な意見が聞けねえのか』 おいおい性格変わってないかお前。
『化けの皮剥がれたなこの野郎。今日こそ決着をつけてやる―――』 あのー……俺は放置っすか

天使と悪魔は暫く舌鋒鋭く論じていたが、やがてもみ合いになり両成敗で消滅した。さて、どうしたもんかね。

1、危険を承知で覗いてみよう
2、ま、険悪な雰囲気でもなさそうだし帰ろう   >>960

960 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 13:24:05.44 ID:1tjvDIlL0

当然1

192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 19:04:03.87 ID:J4dircPH0

覗くか。立ち去るか。その二択を天秤に乗せてみた。
ここで踵を返しちまうと、往復分の足労は一体なんだったのか分からなくなる。
長門の所用の正体が掴めないまま家に帰ってもやもやするより、
リスクを承知で覗いてみた方がいいのではないだろうか。

順調に錘が、右皿――覗くほう――に積まれていく。

女子更衣室を覗くという「共学高校三大禁忌」の一つを犯しているわけでもなし、
ただ長門の様子を確認するだけなのだから、盗み聞きの罪にも問われまい。

最後の錘が積載される。いよいよ右皿の底は地面につかんとし――

俺はそっと足を忍ばせて、ドアの隙間に右目を近づけた。
一気に狭まった視界に、滅多にお目にかかれない生徒会室内の様子が映り込む。
応接用の、高級そうな二対のソファ。その手前の方に長門がちょこんと座っていた。
そしてそれに相対するように座っているのが、黄緑さんである。

「あなたらしいですね。それで彼は、なんと?」
「………何も言わなかった」
「落ち込む必要はありません。大丈夫ですよ。それは感情による行動抑止の典型的なパターンです」
「わたしは落ち込んでなどいない」

様子を伺うだけのはずが、つい聞き入ってしまう。しかしそれも仕方がない。
長門を対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェース(最近やっと噛まずに言えるようになった)扱いするのは
気が引けるが、黄緑江美里さんとのツーショット、つまりTFEI同士が和やか(?)に会話しているというのは、かなりレアなシーンなのだ。

「―――そうですか――てっきり――」
「―――あなた――話には――不確定条件が――含まれて――」

俺が息を潜めているとはつゆ知らず、二人の会話は続く。

207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 19:34:36.40 ID:J4dircPH0

しかし主語が曖昧な会話の概要を、半ば強制的に途中参加した俺が掴めるわけもない。
これ以上覗きを続けても収穫はないだろう。しかし見納めに、と軽い気持ちで生徒会室を見渡した俺は、

「苦労してそうだな、あの人も」

まるで反抗する部下悩んでいるマフィアのボスのように、
左手で髪を掻き上げながら煙草をふかす、会長の御姿を見つけたのだった。
ペンを握った右手は書類審査でもしているのだろう、せわしなく動いている。
……そりゃそうだよな。書記が仕事ほっぽり出して、組織のよしみとはいえ、お喋りに勤しんでいるんだから。
ちなみに会長は留年しながら生徒会長を続行している。
色々と根回しがあったに違いないが、学校側もよく了承したもんだ。
黄緑さんはというと……卒業後も何事もなかったかのように3年生を続けており、
それに異議を唱える者はいない。つくづく思う。情報操作って便利だよな。

「あー、黄緑くん。最終下校時刻は過ぎている。そろそろお暇してもらった方が―――」
「何かいいましたか、会長?」
「いや、独り言だ。彼女の相手を続けたまえ」

すっかり尻にしかれてる会長に内心で苦笑しつつ、俺は再び視線を長門に向けた。
と、その時だった。カチャリと陶器がふれあう音が響き、

「お代わりの紅茶でもいれましょうか」

黄緑さんが優雅な物腰で立ち上がる。そして目を凝らさなければ絶対に見逃してしまうようなタイミングで、
こちらに向かってウインクした。一気に肩の力が抜ける。なんだ、気づかれてたのか。

"わたしは気づいてますよ。彼女が気づくのも時間の問題でしょう"

そんな意図を感じて、俺は今度こそ立ち去ることにした。

220 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:02:28.85 ID:J4dircPH0

すっかり日の落ちた坂道を下っていく。
生徒会室を覗いたことによって得られた眼福は、朝比奈さんのコスプレとはまた違った趣向のものだった。
例えるなら、仲の良い姉妹の掛合いを見掛けた時のような、そんな幸福感だ。
TFEI同士は互いの私生活に干渉しないのか不明だったが、
どうしてなかなか、良い感じに親睦を深めあっているようじゃないか。
長門も「生徒会室に用事」なんて堅苦しい言い方じゃなくて、軽く「喜緑に会いに行く」と言えばいいのにな。

あとこれは余談だが……ハルヒと古泉は昇降口で別れた後、一体何処にいったんだろう?

――――――――――――――――――――――――――――――――――

「すごぉい、見て見てキョンくん!」
「ほう、手品か」
「キョンくんはできないのー?」
「残念ながらな。期待に添えなくてすまんが」

現在時刻10時半。
俺は欠伸をかみ殺しながら、マジック番組に夢中になっている妹の相手をしている。
良い子は寝る時間であり、明日にハルヒとの約束を控えている俺としては今すぐにでもベッドに向かいたいのだが、

「ねぇねぇ。あれって練習したら誰にでもできるようになるのかなー」

俺のあぐらの上に鎮座した妹は就寝のそぶりを全く見せず、膠着状態が続いている。
懐いてくれているのは純粋に嬉しい。
だが、中学生にも関わらず大人びた一面をチラリとも見せぬ妹が、兄としては少し心配です。
夜は更けていく。俺は――

1、妹に明日の予定を説明しておこう。朝振り切っていたら遅刻しそうだ。
2、もう夜も遅い。妹を寝かしつけるか
3、TVを見る気は失せている。メールチェックでもしよう
>>228までに多かった方

222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:05:24.21 ID:DhE5DLAC0

3

223 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/08(土) 20:05:38.77 ID:px0JwCwVO



225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:05:52.05 ID:rw0T3klA0



226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:05:58.16 ID:dwO/hJCF0

2

227 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:06:03.26 ID:OVEvZWQoO

3

228 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:06:04.58 ID:jfeWkqVoO

3

232 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:17:45.15 ID:J4dircPH0

どうせ誰からも来ていないだろうが、一応メールチェックしておくか。
邪魔になって机の上に放り投げていた携帯を取り、問い合わせてみる。

ヴー、ヴー……

おかしい。明日の集合場所と時間については今朝ハルヒとじっくり話し合ったし、
谷口と国木田には明日は一緒に行けないと釘を刺してある。
俺に用がある人間を、想像することができない。受信ボックスを開く。
そこには、

1、麗しの未来人の名前があった
2、幾度となくお世話になった、機関のあの人の名前があった
3、テーマパークを建設した財閥の、令嬢の名前があった。


>>238までに多かったの

233 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/08(土) 20:18:16.04 ID:ggM3cgZd0

2

234 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:19:31.66 ID:LaiyV6SSO

3

235 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:20:04.01 ID:TfHsX+Au0



236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:20:08.51 ID:7FqznmZLO

3が妥当だがあえて1

237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:20:40.98 ID:TfHsX+Au0



238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:20:57.47 ID:i6dl3gwiO

3

258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:43:14.37 ID:J4dircPH0

「朝比奈さん……」

朝比奈みくる。その響きはとても懐かしく、自然と、俺に一年前の日々を想起させた。
あの天使のような笑顔にどれだけ助けられたことだろう。
部室のドアをノックすればメゾソプラノの声と共に出迎えてくれて、
玉露のように味わい深いお茶を毎日のように俺の湯飲みに注いでくれたっけ。
一緒に時間の壁を越えたことも、一度や二度ではない。
特殊能力のない俺はあの人の力になれなかったが、
それでも、その思い出は今でも瑞々しく、大切な記憶として残っている。
コスプレ衣装も、卒業前には軽く20着を超えていて。
卒業パーティの時にファッションショーみたく全部着替えて見せてくれた。
そして、別れの時が来て―――――――

柄にもなく、俺は感慨に耽っていた。懐古するのは後でいい。
メールを開ける。電子情報なのに、実際に手紙を開けるような期待感があった。

from:朝比奈さん
subject:お久しぶりです
キョンくん、元気にしていますか
古泉君や長門さん、そして涼宮さんは、変わっていませんか?
ほんとはもっと色々書きたいのに、無理を言ってこのメールを送らせて貰っているので
本題に移らなきゃいけません。久しぶりなのに、残念です。

明日、キョンくんは涼宮さんと約束をしている筈ですよね。
それで詳しくは言えないんですけど、下記の言葉を覚えていて欲しいんです。
絶対に役に立ちますから。

"F7"

それじゃあ、またね

269 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 21:03:03.68 ID:J4dircPH0

F7――――この英数字の並びに心当たりはなかった。
朝比奈さんが時間の壁を越えてでも伝えたかったことだから、
何かしらの意味が含み隠れていることは間違いないんだが……

「とりあえず返信しておくか」
「誰とメールしてるのー?」

TVに興味を失くしたのか、妹が振り返る。
こいつは憶えているだろうか――朝比奈さんとのとの思い出を。

「大切な先輩とだよ」
「名前は〜?」
「禁則事項だ」

むぅ、と頬をふくらませる妹の脇を抱え上げ、二階へと運んでいく。
妹は最初はシャミセンのようにされるがままだったが、やがて気恥ずかしくなったのか

「自分であるけるもん」

と階段を駆け上っていった。
しかし慌てた所為だろう、最後の一段で足を踏み外して、しこたま頭をぶつけている。栗色の髪が、ふわりと靡く。
――――刹那の、既視感。

「おいおい、怪我してないか」
「いったーい……でも大丈夫だもんね〜。てへっ」

ドジっ娘の資質アリだ。それを自在に操れるようになれば、この世の男はお前にイチコロだぜ。
妹のおやすみにおやすみを返し、俺も寝ることにした。

290 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 21:30:50.87 ID:J4dircPH0

消灯して眼を閉じる。すぐにでも訪れると覚悟していた睡魔は一向に足音を鳴らさず、
俺は眼窩に、懐かしの光景が投影されるのを止める術を持たなかった。

『はぁい、キョンくん。今日はいつもと一味違いますよ。みくるオリジナルです!』

俺は未だに、あなたのお茶を超える飲料に出会っていません。

『ふぇぇええ、こんな服きれましぇーん……露出が多すぎますぅ……』

ハルヒの我儘にも随分困らされましたよね。あのコスプレ衣装は文芸部室で、今でも新品同様に保管されているんですよ。

『なっ、ななな長門さん! 今度街に新しい洋服屋さんができたんですけど……その、わたしと一緒に……』

いつのまにか長門ともうち解けてましたっけ。あいつはあなたの名前を耳にすると、必ず寂しそうに眼を伏せます。

走馬燈のように情景が移り変わり、そして最後に―――泣き笑いの朝比奈さんが現れる。

『ふぇ……ぐす……本当に、……本当にありがとうございました……みんなに会えて、ひくっ…良かったです……』


寝返りを打って、もう一度眼を瞑り直す。込み上げた想いは許容量を超えて横溢する。

「また、会えますか」

無意識に零したその言葉を最後に、俺の意識は暗闇に落ちた。
脇で震える携帯には、気づかぬまま。


当たり前の話だが。返信した宛先は、既に存在していなかったのだ。

293 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 21:34:04.29 ID:J4dircPH0

【三日目終了】



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