366 名前:渡来人(静岡県)[] 投稿日:2007/04/28(土) 18:31:02.15 ID:opfR0JjJ0
SOS団が解散――もとい俺たちが卒業してから1年が経とうとしている。
なんだかんだで俺は二流の私立大学に通っている。
ハルヒがしきりに同じ大学に行くよう勧めてきたものの、とてもあいつが行くような国立大に受かる頭はなく、受けに行ってもいない。
そして卒業式の日、いつもと変わらず部室に集まった俺たちにハルヒは言った。
367 名前:渡来人(静岡県)[] 投稿日:2007/04/28(土) 18:33:59.91 ID:opfR0JjJ0
「あたしたちももう卒業だし、SOS団はこれで解散にするわ! 縁があったらまた会いましょう!」
何となくその時にこちらをしきりに見ている気がしたのはやはり俺の気のせいだったろうか?
とにかく、それっきりハルヒとは連絡を取っていない。まぁ、縁があったらまた会えるんだろう。あいつがそう望むのならな。
それが「縁」ってやつなのかもしれないが。
朝比奈さんや長門、古泉とは卒業後も連絡を取り合っていたものの、春、夏、秋と季節を重ねるにつれてだんだんと疎遠になっていった。
特に古泉のあのにやけ顔を拝むことがなくなったのはいいことだろう。
俺の気分が害されない。……冗談だ。
ハルヒがあの灰色の空間を作ることがなくなってるってことだろう。
368 名前:渡来人(静岡県)[] 投稿日:2007/04/28(土) 18:36:02.63 ID:opfR0JjJ0
それとも、俺に代わる人物が、既にハルヒの傍に居るということだろうか。
だから俺はもう不要になったというのか?
それなら今まで連絡がないのも頷ける。
以前聞かされた「選ばれた」というフレーズが頭の中で繰り返される。選ばれたのにこんなにあっさり切り捨てられるのか。ざまあねぇな、俺。
軽い頭痛がした。まるで、頭が考えることを拒否するかのように。
今ではすっかりやらなくなった肩をすくめるあのポーズを一度して、俺は溜息をついた。
369 名前:渡来人(静岡県)[] 投稿日:2007/04/28(土) 18:38:42.43 ID:opfR0JjJ0
いいことじゃないか。もうおかしな事件に巻き込まれて、過去に戻ったり、殺されかけたり、パラレルワールドを見たりしなくて済むっていうんだぜ。それこそまさに高校時代、ハルヒと過ごしていたあの頃の俺が望んでいたことじゃないってのかよ。
……畜生。大学のベンチで何度も肩をすくめてたら俺は変質者以外の何者でもなくなっちまう。
ああそうさ。俺は確かにあの高校時代が楽しかった。
部室の戸を開けるときにノックをし、朝比奈さんのメイドルックを鑑賞しながらお茶を飲み、古泉とボードゲームをする横目で読書する長門を眺め、ハルヒと一緒に市内を練り歩く。
危険というリスク以上に、そんな非日常の日常が好きだったのさ。
もう一度……もう一度会いたいなんて、俺らしくないだろうか。
いい加減寒くなってきた。妹にもらった下手糞だが暖かいマフラーを直し、膨らみかけた桜の蕾を眺めつつ門をくぐった瞬間。
ハルヒが居た。……などということはなく今日何度目か分からない溜息をついた。
自分の願望が達成されず落ち込むなんて、ハルヒか俺は。
371 名前:渡来人(静岡県)[] 投稿日:2007/04/28(土) 18:41:46.58 ID:opfR0JjJ0
「まったくです」
そう、まったく俺はなんて……ちょっと待て。
振り返ると、紛れもなく高校時代に見飽きるほど見たあのにやけた笑みがあった。
372 名前:渡来人(静岡県)[] 投稿日:2007/04/28(土) 18:43:37.39 ID:opfR0JjJ0
「お久しぶりです」
連れだって入った喫茶店で古泉はそんな挨拶とともに近況報告を始めた。
まず、古泉とハルヒは同じ大学に居るらしい。
ハルヒは大学では全てのサークルを見回ったもののどこにも入らず、だが今度は自分でサークルを立ち上げるようなことはなく、高校時代から頻度こそ減ったものの昔のように古泉と二人で市内を練っているらしい。
ハルヒの超能力じみた能力も失われていないようで、機関が見張ることを考えると古泉が近くに居るのは当然だろう。
当然なことのはずなのに、心に蠢くこのどす黒い感情に気づいて、軽い自己嫌悪に陥る。聞こえないように舌打ちをした。
374 名前:渡来人(静岡県)[] 投稿日:2007/04/28(土) 18:46:34.70 ID:opfR0JjJ0
さて、古泉の話によると、朝比奈さんだが、高校を出て大学に行ったものの、ハルヒの卒業に合わせて大学を中退。ハルヒの下宿の近くに引っ越して就職したようだ。
いかがわしい職業ではないらしい。うん、それでいい。
長門は……古泉には分からないらしい。
卒業と同時に連絡を取らなくなったというから、ひょっとしたら長門と連絡を一番長く取っていたのは俺だったかもしれない。まぁ、ハルヒの近くにいて元気に観察しているのは確かだろう。
古泉の近況報告が済んだところで、俺は自分の近況報告もそこそこに、この一年ずっと気になっていたことをズバリ聞いた。
「ハルヒは……あいつには、俺はもう必要ないのか?」
ああ、俺にしてはかなり直球の質問だな。
何をそんなに焦ってるんだ俺は?
古泉はこちらを見透かそうとする目を笑顔のまますると(これがまたムカつく顔なんだが)、
「そんなこと僕に聞かれましてもねぇ?」
などとほざきやがった。
375 名前:渡来人(静岡県)[] 投稿日:2007/04/28(土) 18:48:50.08 ID:opfR0JjJ0
「ただ、高校在学中に比べて閉鎖空間が発生する数が格段に上がったのは確かです。しかし、閉鎖空間ひとつあたりの脅威は減少傾向にあります」
……日本語で説明してくれるとありがたい。
「噛み砕いて説明すると、涼宮さんが不愉快に感じる数は多いものの、ものすごく不愉快に思うことはまずなくなった――もしくは、意識的にそれを押さえつけようとしている、といったところでしょうか」
そこで古泉は一旦間をとった。
この野郎、もったいぶるんじゃねぇよ。
「何なら、会ってみますか?」
心臓が、核爆発を起こした。
377 名前:渡来人(静岡県)[] 投稿日:2007/04/28(土) 18:51:37.73 ID:opfR0JjJ0
まぁなんだ、高校時代、俺は散々ハルヒにもっと考えろー、みたいなことを言葉にするにしろしないにしろ考えていたと思うんだが、どうやらそれは少し前の俺にこそ言うべきだったようだ。
結局俺は古泉に言われるままハルヒの大学に来ていた。俺の通う二流大学とは比べ物にならない風格が漂っている。
やっぱ国立は違うねまったく。
だがよく考えると古泉もここに通っているわけで、顔も良くて頭も良くて何だオマエははとか思ったり思わなかったりする。
ただそれでも、
「それでは僕は講義がありますので」
などといって立ち去っていったのはやっぱり気を遣ってくれたのだろう。
しかし。
ハルヒに会うのはいい。だが、何を言えばいいというんだ?
確かにSOS団で集まりたいとは思った。だがハルヒと1対1でとなれば話は違う。
しかもそれは漠然とした考えでしかなくて、いざ会うとなると何を言えばいいのか分からない。
え? 古泉とは普通に会話をしていた? それは相手が古泉だからな。
色々なことを曝け出しあった仲だ。いや、いやらしい意味じゃねぇよ。
380 名前:渡来人(静岡県)[] 投稿日:2007/04/28(土) 18:53:54.60 ID:opfR0JjJ0
などと悶々としていたのだが、何だこれは。まるで俺がハルヒを意識しているみたいじゃないか。
断じてそんなことは……ないんだろう。多分。
と、そこに。
「……キョン?」
ああ、ハルヒ。オマエにそんな疑問形の文は似合わないな。
やっぱり涼宮ハルヒは断定しなくちゃならない。
リテイク。
「キョンでしょ?」
そうかい。俺の思い通りにはならないってかい。
「その通りだハルヒ。久しぶりだな、ぁっ!?」
変な声が漏れた。
俺がハルヒの方を向いたとき、やつは段々顔を真っ赤にしていき、それは間違いなく、あのハルヒが泣き出す瞬間だった。
384 名前:渡来人(静岡県)[] 投稿日:2007/04/28(土) 19:00:29.83 ID:opfR0JjJ0
とにかく、大学の構内では、泣いている女と所在無さげな男という組み合わせは無駄に学生の好奇心を煽るだけなので、とりあえず手近な喫茶店に泣きじゃくるハルヒを抱きかかえるようにして連れて行こうとした。
だが、そんなところに行ったところで大して変わりはないことに道中で気付き、結局近くのやや大きめの市民公園に場所を移した。
場所も季節も違うというのに、朝比奈さんから話を聞いたあの日を思い出す。
どうやら屋外のベンチというシチュエーションは俺にとってビッグイベントの前触れのようだ。それがバッドなものかグッドなものか分からないが。
そこのベンチに腰を下ろす頃には流石にハルヒもすっかり泣き止んでいたが、それでもあのハルヒに泣き腫らした目などというのは似合うはずもなく、何となく気まずい雰囲気がお互いに流れていた。
「なぁ、ハルヒ」
「何よ」
打てば響くように返ってきたその返事を聞いて、やっぱりハルヒはハルヒのままなのだなと少し安心した。
ハルヒは泣いていたからか恥ずかしそうに顔を赤らめていたが、それすら隠すように固めの表情を作っている。恥ずかしい表情もいいと思うんだがな。
だがしかし、それでも俺は思う。
そうさ。オマエはその強気な顔がいい。
385 名前:渡来人(静岡県)[] 投稿日:2007/04/28(土) 19:02:39.77 ID:opfR0JjJ0
それだけでひとまず満足したので声をかけたまま何も言わない俺を見て、根負けしたようにハルヒも口を開いた。
「ねぇ、キョン」
「何だ」
「会いたかった……」
いきなりハルヒが俺の方に頭を預けてきた。
ちょ、ちょっと待てハルヒ。おまえにそんな女の子らしい行動は似合わない! 断じて似合わない!
アレだ、怒鳴れ、罵れ、元気出してくれ!
などとは口に出せず心で思うだけだったが。俺も空気くらい読めるさ。
「どうして……どうして何も連絡くれないのよ! しかも今更現れて……」
ちょっと待て。
それはこっちのセリフだ。そんなに俺の顔が拝みたかったのなら電話でもメールでもよこせばよかったというのに。
なんてまるでハルヒに責任転嫁するようなことは言えるはずもなく、俺はハルヒの言葉を黙って聞いていた。
387 名前:渡来人(静岡県)[] 投稿日:2007/04/28(土) 19:06:09.10 ID:opfR0JjJ0
高校を出た途端何も連絡をくれず不安だったこと。
高校時代にした自分の行いがもとで俺に嫌われていたのではないかと思っていたこと。
だから自分からは怖くて連絡を取れなかったこと。
話を聞いて、そして、俺は決心した。
「ハルヒ」
ハルヒの言葉を紡いでいた形のいい唇が閉じる。
「好きだった。高校の頃から。ハルヒさえよければ……付き合ってくれないか。オマエの傍にいるだけで楽しいんだ。心が安らいで、温かくなる。だからこれからは、もっと近くにいてほしい」
高校時代からぼんやりと描いていた思いを。
大学に入ってからよりはっきりしてきた思いを。
俺は言葉にした。
そう、俺はSOS団で過ごした日々が好きだった。だけどそれは、その中心にハルヒが居たからなんだ。
まぁ、再会していきなりこれはどうかと思うんだが。
388 名前:渡来人(静岡県)[] 投稿日:2007/04/28(土) 19:08:38.86 ID:opfR0JjJ0
「もう……バカ、なんで、こんなときに……っ」
何てことだ。また泣き出してしまった。
だけれども、女性の涙への耐性がどうやら復活したらしい。俺はハルヒをそっと抱き寄せた。
「キョン。もう、どこにも行かないって……約束しなさい」
ふぅ。ハルヒ。強要したら約束とは言わないだろう?
だけれど今回ばかりは……見逃すとしよう。
「ああ、絶対に、約束する」
本格的にハルヒが俺の胸に顔をうずめてきた。
「…………………」
「え? 何だって?」
「あたしも好きだって言ったのよ! 何でも言わせるなバカキョン!」
ああ、そうだ、俺は今きっと、今までにないくらい幸せだろう。
朝比奈さんの生着替えよりも、長門の表情の変化を見つけたときよりも、きっと、いや間違いなく、幸せなんだ。叫びだしたいくらいにな。
「これからよろしくな、ハルヒ」
391 名前:渡来人(静岡県)[] 投稿日:2007/04/28(土) 19:09:37.39 ID:opfR0JjJ0
結局あの後は、ハルヒを家に送り届けて帰路についた。
安心してくれ。何もしていない。キスまでしかな。
392 名前:渡来人(静岡県)[] 投稿日:2007/04/28(土) 19:10:28.39 ID:opfR0JjJ0
「古泉」
「なんでしょうか?」
次の日、俺は古泉と喫茶店にいた。
古泉に俺とハルヒが付き合うことになった旨を告げると、あいつはさして驚くでもなく更に驚くべき事実を俺に告げた。
「それは本当か?」
「貴方に嘘をついてなんになるというんです?」
即ち。
涼宮ハルヒは今回の一件であの意味不明な能力を発動していた、という事実。
「それじゃ俺は、こんなに大事なことでさえ……この気持ちでさえ、あいつの手の内で踊らされていたということなのか?」
「おっと、それは違いますよ」
どういうことだ。
395 名前:渡来人(静岡県)[] 投稿日:2007/04/28(土) 19:11:58.87 ID:opfR0JjJ0
「涼宮ハルヒは、今回の一件、その能力をあなたに向けて発動していたのは事実」
長門が古泉の横に座っていた。
久しぶりだな。
「そう」
いつの間にそこに、などと思ったものの相手が長門である以上これくらいで驚いてもしょうがあるまい。古泉も軽く眉を上げただけのところを見ると同じことを思ったのだろう。
まぁ、元気な姿を見れて何よりだ。
「涼宮ハルヒは全てがあなたの判断の通りになるように願っていた」
長門さん?
それは一体どういうことで?
399 名前:渡来人(静岡県)[] 投稿日:2007/04/28(土) 19:14:40.67 ID:opfR0JjJ0
「つまり、涼宮さんはキョン君に全てを委ねていたんです」
「朝比奈さん」
長門といってることがほとんど同じで噛み砕かれていないのですが。
どうやらこれ以上噛み砕いて言うつもりはないらしく、朝比奈さんはぺこりとかわいらしく一礼してから俺の隣にちょこんと腰掛けた。
あの、朝比奈さん。この一年でまた成長なさったようで。
だが今は目の保養をしている場合じゃない。
「詳しく解説してくれ」
401 名前:渡来人(静岡県)[] 投稿日:2007/04/28(土) 19:17:57.47 ID:opfR0JjJ0
「涼宮さんは、高校受験の際、あなたに同じ大学を勧めたものの、同じ大学に来るように能力で強要はしませんでした。また、あなたが自分に連絡を取るようにも、告白するようにも強要していません」
「涼宮ハルヒは自分と同じ大学に来るか、卒業後も連絡を取るか、全てあなたの判断に任せていた。結果、あなたは違う大学に行き、彼女に連絡も取らなかった」
「涼宮さんは、自分の能力でキョン君が行動を制限・強要されないように能力を発動していたんですよ」
よく分からないが、つまり俺は自分を噛んだ毒蛇本人に解毒剤をもらったような状態だったわけか。
そしてSOS団の解散の際に言った「縁」という言葉、それは俺が連絡するかどうか、ということだったということだろうか。
まぁ、本人はそこまで自覚していないだろうし考えていないんだろうけど。
402 名前:渡来人(静岡県)[] 投稿日:2007/04/28(土) 19:20:31.91 ID:opfR0JjJ0
「涼宮ハルヒは自分の能力に無自覚ながら深層心理のもっとも深い部分で気付いていた。だからあなたが自分の能力であなたの人生を狂わせないようにプロテクトした」
「彼女は自分の能力に無自覚ながら気付いていたからこそ、自分から連絡することを無意識のうちにやめていたのですよ。」
それじゃ閉鎖空間の脅威の軽減は……
「彼女自身が望んであなたの判断に任せたのですから、それであなたと連絡が取れず不機嫌になっていてはあなたも彼女自身も否定してしまうことになる。だから、彼女は自分で閉鎖空間を押さえ込んでいたのです」
そういうことだったのか。
「とにかく、これでキョン君も涼宮さんもハッピーエンドってことですよ!」
最後に朝比奈さんが締めくくり、喫茶店でのネタばらしは終わった。
分かりづらい? 悪かったなこの野郎。
だが大丈夫、俺も一番最後の朝比奈さんの言葉しか理解していないし、それだけで十分なのだろう。
ただこれだけは言うぞ。まだエンドじゃないさ。人生という物語は、俺たちが死ぬまで続くんだから。
403 名前:渡来人(静岡県)[] 投稿日:2007/04/28(土) 19:22:22.99 ID:opfR0JjJ0
俺はその夜、布団の中でぐちぐちと考え事をしていた。
なるほどね。
今まで俺たちを引っ張りまわしたオマエが、高校生活の最後の最後、俺にこれからを委ねてくれていたのか。
だというのに俺はハルヒの思いに応えず、勝手に自分の中で自己完結してたってのか。
ハルヒの能力に甘えていたということか。
くそっ。何が「あいつがそう望むのならな」だ。長門や古泉だけでなくハルヒにも依存しきっていただなんて。
405 名前:渡来人(静岡県)[] 投稿日:2007/04/28(土) 19:23:44.26 ID:opfR0JjJ0
「ハルヒ」
次にハルヒと会った日の帰り道、俺は隣を歩くハルヒに話しかけた。
「ゴメンな」
「何よいきなり? あんたが珍しく殊勝な態度取るなんて。雪が降るかしら?」
「俺、オマエから連絡がなくなったとき、きっと嫌われたんだって思って、そのまま何も行動できなかったんだ。縁があったら、ってオマエは言ったけど、縁は自分で繋ぐものだと分かったよ」
てっきり「何よ、クサいこと言うじゃない」とでも返ってくると待っていたのだが、いつまでたっても何も返ってこない。
隣を見ると、ハルヒが唇を噛んで悲しそうな顔をしていた。
ああ、そんな顔をするなよ、頼むから。
406 名前:渡来人(静岡県)[] 投稿日:2007/04/28(土) 19:24:47.45 ID:opfR0JjJ0
「あたしの方も、あんたからの連絡が何も来ないから、嫌われてたんだって思って……あんだけ引っ張りまわして迷惑かけたんだから当然よね、って一人で納得して、でも納得できなくて、それで、それでも……」
まだ続けかけたハルヒの口を自分の唇で塞ぎ、離れないように強く抱きしめた。
OK、それだけ聞ければ十分だ。一度聞いていたしな、オマエが泣いたあの日に。
俺と同じように、ハルヒも待っていてくれた。
だけどどちらも臆病で、後一歩踏み出せなかった。
「バカだよな、俺たち。ホント……」
その瞬間、ハルヒの顔が見えなくなった。袖でぬぐってもぬぐっても愛しい顔はぼやけたままで、途中からはもうあきらめて泣きじゃくった。
ああ、ハルヒ。お前まで泣くなよ。
俺が泣いていたとしても、お前は笑っていてくれよ。
引っ張ってくれよ。そう、高校時代のようにな――
409 名前:渡来人(静岡県)[] 投稿日:2007/04/28(土) 19:27:14.01 ID:opfR0JjJ0
ああ、それから。
俺は古泉に個人的にきちんと礼を言った。なにしろハルヒと俺を引き合わせるきっかけになってくれたんだからな。
「いえ、あのまま放っておいたらいつかは涼宮さんのイライラが爆発して大変なことになりそうでしたから」
などといっていたものの、あの笑顔の奥に「照れ」が混じっていたのを俺は見逃していない。まぁ、俺に礼を言われることなんてほとんどなかったろうからな。
ただ、古泉の表情が読めるようになっちまったのは気がかりだ。長門はまだしも野郎の表情なんか読めたところで面白くない。
そして、結局俺からはハルヒのプロテクターは消え、なんだかんだであの非日常に巻き込まれることになるようだった。
そういうわけで古泉たちとの相談の結果、俺たちは二人きり出会うことと1対1くらいの割合で、5人で会うことをまたはじめた。
不思議探しにとどまらず活動範囲は多岐にわたっている。最早ただの仲良しグループだ。それでいいんだけどな。……朝比奈さんは平日も来ていたが、仕事大丈夫だろうか。
412 名前:渡来人(静岡県)[] 投稿日:2007/04/28(土) 19:32:00.04 ID:opfR0JjJ0
そういえば古泉はハルヒだけでなく朝比奈さんや長門とも俺と縁をつなぎなおしてくれたことになるのか。
何はともあれ閉鎖空間も発生がゼロとは言わないが抑えられているようだし、そう、それはそれは平和で、とても幸せな状態だ。
オマエもそうだといいんだがな、ハルヒ。
そう思った途端、満面の笑みを俺に向けてきた。
おいおい、今度は読心術かよ。
でも、オマエが幸せなら、心を読まれるくらい安いもんなんだけどな。
「幸せだな」
「何言ってるのよ。向上心を失ったらそこで人間終わりよ?」
これ以上幸せになるのか。世界の不幸な人に申し訳ないな。幸せを分けてやりたいくらいだ。
でもそうだな。
オマエがそう言うのなら……俺たち二人で世界の幸せを独占するくらいになってやろうぜ。
END
417 名前:渡来人(静岡県)[] 投稿日:2007/04/28(土) 19:35:23.95 ID:opfR0JjJ0
疲れた……最初の投下から1時間もたってるのか。
wktkとか支援とかしてくれた人、ありがとう。
陳腐だが言わせてもらう。すげぇ元気出るわ。
こんなもんのために時間取らせてしまって申し訳ない。楽しんでくれたらよかったんだがな。
この神スレでSS書けてよかったよ。
ネタはまだあるからできることならまた投下できるよう頑張りたい。